開業医意識実態基礎調査から【2016年度】

公開日 2017年03月21日

問10. 先生ご自身の標準的な1日の実労働時間(全日診療の場合で、往診・在宅医療や調べもの等、請求事務を含みます)はどれくらいですか 

実労働時間は7~9時間が最も多く、続いて9~11時間である。
この傾向は全国調査と同傾向であるが、過去4回の調査ではじめて11時間以上が20%を超えた。全国調査(16.4%)と比較すると、顕著である。

170205_01_gra1_1日の労働時間

4年毎に協会・保団連が協力して実施している開業医実態意識基礎調査の結果がまとまった。協会に「開業医」として登録されている都内の診療所の会員4,467人に調査票を送付し、11月28日までに1,123人から回答を得た(回収率25.1%)。今号から連載で調査結果を報告する。

1日の実労働時間(問10)は「11時間以上」との回答が20.3%となり、過去4回の調査ではじめて2割を超えた。「9~11時間未満」の29.9%と合計すると「9時間以上」が過半数を超えた。「5~7時間未満」は11.7%、「7~9時間未満」は32.2%だった。

2004年調査では、「7~9時間未満」が最多の41.0%、「9~11時間未満」が21.0%、「11時間以上」が13.2%であった。「9時間以上」働いている割合が12年間で15%上昇し、逆に「5~9時間未満」働いているとの回答者割合は15.9%減っている。04年調査との比較からは、長時間労働が増えていることが読み取れる。

休日日数(問11)は「1日未満」が16.8%、「1~2日未満」が51.7%で、約7割が休日を週2日確保できていない。「2~3日未満」は28.2%だった。
長時間労働の傾向が強まり、慢性的な心身の疲労と健康問題を抱えている回答者は3割にのぼった。また週休2日を確保できているのは回答者の3割にとどまる。開業医の厳しい労働実態が調査結果から明らかになった。


増える「査定・減点」

最近の基金・国保の審査内容に「不満がある」と回答した会員に、その理由を三択でたずねたところ、「審査基準が不明確である」が71.6%、「医学的判断による見解の相違」が54.1%、「査定・減点の増加」が49.5%と続いた。

2008年調査から4年毎の経年比較では、「返戻の増加」が18.9%(08年)→16.0%(12年)→23.5%(16年)、「査定・減点の増加」が38.9%(08年)→35.2%(12年)→49.5%(16年)と推移し、他の理由に比べ増加傾向が顕著であった。

支払基金では2012年2月診療分から、医療機関レセプトと薬局調剤レセプトの突合・縦覧点検が、また、国保連合会でも2013年9月診療分から縦覧点検が、2015年1月診療分から突合点検がはじまった。レセプト審査が強化されるなかで、「返戻」「査定・減点」の増加を実感している会員が増えている。

「再審査請求を必ずする」は3割

減点に不満がある場合、27.9%が再審査請求を「必ずする」、39.4%が「ときどきする」と回答した。一方で、「再審査請求しない」が30.4%を占め、減点に不満があるにもかかわらず、再審査請求しないとの回答が3割にのぼった。

問17.減点内容に不満があれば、再審査請求をしますか

問17.-再審査請求をしますか

減点に不満がある場合、27.9%が必ず再審査請求を行っている。一方、再審査請求をしていない回答者は30.4%。経年的には、再審査請求をしない回答者が増加している。

* * * * *

再審査請求を「必ずする」「ときどきする」と回答した会員に、再審査の結果をたずねたところ、「多くが復活」が19.8%、「半分程度復活」が38.2%で、あわせて58.0%が半分程度以上復活していると回答した。「再審査請求を必ずする」回答者でみると、半分程度以上の復活率は63.6%に達した。回答者の復活率は「ときどきする」に比べ高くなっている。

問17-2.「必ずする」「ときどきする」と回答された先生にお聞きします。再審査請求した結果はどうでしたか。

問17-2.再審査請求の結果はどうでしたか

再審査請求する回答者の58.0%が結果について、半分程度以上復活していると回答している。「再審査請求を必ずする」回答者の復活率は全体と較べて高い(半分程度以上に合計すると63.6%)。
なお、経年的に「多くが原審どおり(復活しない)」が増加している。

* * * * *

「多くが原審通り(復活しない)」との回答は、26.8%(08年)→28.9%(12年)→34.8%(16年)と年々増加しており、レセプト審査が厳しくなっていることをうかがわせる。

納得いかぬ査定・減点は再審査請求を!

東京保険医協会は、納得のいかない査定・減点については、泣き寝入りすることなく、算定根拠を明確にして再審査請求することを会員に呼びかけている。その結果、年間約700件の再審査請求書が協会を通じて提出されている。

今回の調査で「再審査請求を必ずする」回答者の復活率が高いことが明らかになった。協会審査対策委員会では毎月、協会に寄せられた再審査請求書を検討し、再審査請求書やレセプト作成のアドバイスを行っており、再審査請求の結果、復活した事例が会員からは多く寄せられている。査定・減点についての疑問は、協会審査対策委員会まで気軽にお問い合わせいただきたい。

▽再審査請求書作成プログラムの無料配布も行っています!ホームページからお申し込みください(担当:協会 情報通信システム部)


「個別指導」は増加傾向

 最近5年以内に行政の個別指導を受けたことが「ある」との回答は、13.7%となり、過去4回の調査で初めて10%を超えた。個別指導の内容に納得できたかどうかについては、38.3%が「概ね納得できた」と回答した。経年比較では50.0%(08年)→45.8%(12年)→38.3%(16年)となり、「納得できた」との回答は減少傾向にある。

 個別指導にあたり、誰に相談したかをたずねたところ、「協会に相談」との回答が43.5%で過去最高になった。4年毎の経年比較では15.2%(08年)→32.2%(12年)→43.5%(16年)となり、4割を超える回答者が協会へ相談している。一方、「誰にも相談していない」との回答は45.7%(08年)→40.7%(12年)→24.8%(16年)と減少している。

問18-2.個別指導に当たって、どなたかに相談されましたか

問18-2(個別指導の相談相手)
個別指導に当たって、43.5%の回答者が協会に相談している。
経年比較すると特にこの項目が増加している。この傾向は全国調査と比較して顕著である。

問18-3.個別指導の際、次のことを要望しましたか

問18-3(個別指導の際の要望)
個別指導時の録音を要請している回答者は32.8%であり、経年比較すると増加している(過去調査には、「要望せずに録音した」の項目はなし)。
この傾向は全国調査(10.8%)と比較して顕著である。5.2%は個別指導時に録音を拒否されている。

個別指導時の「録音」「弁護士帯同」が定着

 個別指導の際、「録音を要望し行使した」との回答は27.6%で3割に迫った。保団連全体では10.4%であり、その差は顕著だ。経年比較では4.3%(08年)→20.3%(12年)→27.6%(16年)で、4年毎に大きく増加している。逆に「録音を要望していない」は80.4%(08年)→67.8%(12年)→65.7%(16年)で減少傾向にある。
 個別指導の際、「弁護士帯同を要望し行使した」との回答は8.4%だった。経年比較では0%(08年)→5.1%(12年)→8.4%(16年)と増加傾向にあり、弁護士帯同が徐々に定着してきている。

「個別指導」の相談はぜひ協会へ

 協会は、個別指導時の「録音」と「弁護士帯同」を繰り返し会員に呼びかけてきた。「録音」と「弁護士帯同」が指導官の強権的な言動を防ぐために有効であることが周知され、当たり前のものになりつつある。また、個別指導にあたって「協会に相談する」との回答が4割を超えたのは、協会の帯同弁護士の紹介をはじめとした懇切丁寧な相談対応への信頼の証でもある。
 協会は保険医の生活と権利を守る砦だ。引き続き厚生局の動きを注視し、会員への情報周知に努めていく。「個別指導」でお困りの先生はぜひ協会までご相談いただきたい。


問20.公的医療保険の必要額を賄うためには、どの負担を増やすべきだと思いますか。

問20.公的医療保険の必要額を賄うためには
 

問23.1~3割窓口負担に上乗せする「受診時低額負担」の導入についてどう思いますか。

問23.1_3割負担に上乗せする「受診時低額負担」の導入について

 

 患者窓口負担に上乗せする「受診時定額負担」には「反対」32.6%、「どちらかと言えば反対」19.3%で、合計51.9%が反対した。
「賛成」、「どちらかと言えば賛成」は合わせて16.4%だった。新たな患者負担増への反発は根強い。

 患者の窓口負担割合では、子どもでは「0割」53.4%→「1割」31.2%と続き、現役世代では「3割」が67.1%を占めた。
 高齢者については、「1割」40.2%→「2割」30.5%と続き、現状維持を求める回答が多数を占めた。

 公的医療保険の財源としてどの負担を増やすべきかをたずねたところ、「大企業の法人税」との回答が45.6%で4割を超えた。「消費税」34.4%「富裕層の所得税」22.2%と続いた。
 「患者の窓口負担」は15.0%「被保険者の保険料」は11.0%であった。

窓口負担は限界

 財源を「患者の窓口負担」に求める回答は少なく、窓口負担割合も現状維持を求める回答が多かったことから、「患者負担は限界にきている」との医療現場の実感が調査結果に現れた。

マイナンバー利用拡大「反対」6割超

 マイナンバー制度のレセプト・カルテへの利用拡大は、「反対」48.0%、「どちらかといえば反対」15.8%、合計63.8%が反対した。「賛成」は3.8%、「どちらかといえば賛成」と合わせて11.9%で賛成は約1割にとどまった。

 マイナンバー個人番号カードと健康保険証との一体化については、「反対」45.0%、「どちらかといえば反対」15.0%、合わせて60.0%が反対している。「賛成」、「どちらかと言えば賛成」は合わせて18.3%だった。
 確定申告書や住民税特別徴収の税額通知書へのマイナンバー記載については、対応をめぐって現場で混乱が起きている。マイナンバーにさまざまな情報を紐付けしようとする政府の計画は、個人情報保護の流れとそもそも対立するものであり、マイナンバー制度に対する拒否反応が調査結果にも顕著にあらわれた。

問25.マイナンバー制度のレセプト・カルテへの利用拡大についてどう思いますか

問25_マイナンバーのレセプト・カルテへの利用拡大について

「TPP」反対過半数 発効不可能も 対日圧力強まる恐れ

 TPP協定については、「反対」25.6%、「どちらかといえば反対」23.8%で、合計49.4%となり、約過半数が反対した。「賛成」8.5%、「どちらかといえば賛成」17.3%で、合わせて25.8%だった。
 トランプ米大統領は、1月23日にTPPから離脱する大統領令に署名し、TPP発効は事実上不可能となった。今後は、日米2国間交渉で、米国通商代表部(USTR)などからの対日圧力がこれまで以上に強まるだろう。世界に冠たる国民皆保険制度を守りぬく運動を強化する必要がある。

問26.TPP協定について、どうお考えですか

問26_TPP協定について

 

 

(つづく)