【主張】逆風に立ち向かって――2015年 協会活動を振り返る

公開日 2015年12月25日

 安倍政権は発足以来、国民の反対の声に耳を傾けることなく、独善的な政策を推進するため、虎視眈々と準備を行ってきた。

 そして、今年はまさに、彼らの野望の幾つかが具現化してしまった年と言えよう。すなわち、安保法案の成立、新自由主義・市場原理主義を背景にしたTPPの大筋合意、共通番号制の始動、原発の再稼働などなどである。更にこの先に待っているものは、共通番号制の更なる紐付け、消費税引き上げ、診療報酬改定である。

 5月に医療保険制度改革関連法が成立した。法案に含まれている内容の濃さとは裏腹に余りにも短い審議時間での成立であった。6月には「骨太の方針2015」の策定にあたり財務省の財政制度等審議会が「建議」を提出した。その内容は診療報酬の本体部分も含めたマイナス改定の要求である。同審議会は11月にも「建議」をまとめ、社会保障分野では歳出抑制が不可欠とし、工程表を示し、これまで要求してきた改革を「手を緩めることなくスピード感を持って実施しなければならない」と強調している。

 いかなる制度も時とともに、ほころんでゆく、それを正すことに非を唱えるものではない。しかし、それが偏向した議論のなかで進められていることに強い危惧を感じる。財務省の要求が、経団連の打ち出した提言と酷似していることからも経済人主導であることが伺える。そこには医療人など社会保障を擁護する者の姿が見えてこないのである。

 そもそも社会保障は資本主義の歪みを正すために生まれた。経済と両立し、人に優しい、より健全な社会の実現のために発展してきた。しかし、経済至上主義の潮流のなか、社会保障は経済の足かせなどといった論調に引きずられ、今、その本質が国民にきちんと伝わっていないと感じている。社会保障は国民を守るための経済と両輪をなす、重要な社会的インフラであることを再確認すべきである。その上で、医療において安全とコストは二律背反であることを明確にすべきである。

 日本の医療制度は世界保健機構が認めるごとく、他の先進国の、どの制度よりも社会の発展に貢献してきた。特筆されることは低コストでそれを実現したことである。しかし、それを支えたのは、医師をはじめとする医療従事者の職業的倫理観を背景にした献身的な努力があったからである。

 医療の安心、安全にはそれに応じたコストが掛かる。給付を減らし、患者負担を増やせば当然の如く医療の質は落ち、それらは脅かされる。それとも彼らは、今一度、われわれに献身的な努力を求め、その犠牲の上に安心、安全を確保しようとしているのであろうか。金持ちだけが安全を買える国にしてはならない。医療従事者の犠牲を前提にした制度にしてはいけない。政府は医療制度改悪を美辞、麗句で隠すことなく、このことを国民に説明し来年の参議院選の争点とすべきである。

 今年は野党のひ弱さが目立った。しかし、それとは逆に安倍政権に反発する国民のうねりを感じた年でもある。われわれも、いつも追い立てられる子羊から脱し、開業医も勤務医もすべての医師が連帯し逆風に立ち向かっていかなければならない。その実現のために、東京協会は、これまで以上に会員の先生方と寄り添い歩んで行きたい。

(『東京保険医新聞』2015年12月25日号掲載)

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