【主張】診療報酬マイナス改定を許すな――「社会保障解体」は財界の要求

公開日 2015年11月25日

 2016年度診療報酬改定をめぐり、財務省がマイナス改定を要求している。今年6月、「骨太の方針2015」の策定に際して、財政制度等審議会が提出した「建議」にも、診療報酬本体のマイナス改定を明記していた。なぜ、財務省は診療報酬の引き下げを繰り返し要求してくるのか。それは財界の要求を色濃く反映しているからである。

 まず、財界の総本山、日本経団連が本年5月19日に発表した「財政健全化計画の策定に向けた提言」を見てみよう。これには「社会保障に係る給付費の抑制策例」が示されている。

 医療関連は以下のとおりである。▽医療資源の機能分化▽後発医薬品使用の推進▽ICT化やマイナンバーの利活用▽検査や投薬のムダの排除▽医療の標準化、地域差の是正▽OTC類似薬(湿布など)の保険はずし▽保険点数に費用対効果の観点を導入▽後期高齢者医療の自己負担の引き上げ(1割→2割)、高額療養費制度(外来特例など)の見直し▽受診時定額負担の導入▽診療報酬・介護報酬のマイナス改定―などだ。財務省が打ち上げた診療報酬マイナス改定も含め、これらすべてが政府の政策立案のうしろにあることがわかる。

 さらに政府がつくる経済財政諮問会議のメンバーは、議長の総理大臣を除いて10人。官房長官と経済財政担当大臣を除くと8人だ。そのうち民間議員は、新浪剛史氏(サントリーホールディングス社長・元株式会社ローソン取締役社長及び会長)と経団連会長の榊原定征氏(東レ会長)、そして東大教授と日本総研理事長の計4人となっている。安倍政権成立後の3年間で合計326件の説明資料の提出があったが、民間4議員連名による提出回数は117回で、全体の36%を占めている。次点の内閣府54件17%と比べても突出しているのだ。文字通り、日本経団連会長の主張が直接、国政に反映する仕組みとなっている。

 この構図は首相官邸が主催する「司令塔」的な他の会議体でも同様だ。たとえば産業競争力会議の議員17人のうち7人、規制改革会議は16人中6人が財界・大企業の代表である。いまの日本は財界・大企業の要求がダイレクトに政府の政策決定に反映する、「主権財界」の様相を呈している。

 今回の財務省による診療報酬マイナス改定の要求は、社会保障費を抑制して、税・社会保険料の負担という社会的責任から逃れ、患者申出療養制度などを足がかりに、医療を儲けの場に変えようとする政財の主張を鵜呑みにするものだ。このような動きは社会保障、とりわけ公的保険制度を破壊するものであり、到底容認することはできない。

 この国の為政者は、国民の命と健康を守るのではなく、財界の要求を優先し、社会保障解体に向かって暴走しているようにみえる。われわれは公的医療費の総枠拡大と、受診抑制につながる患者負担の軽減を求め、国民が安心して治療に専念できる皆保険制度の再構築を目差していきたい。

(『東京保険医新聞』2015年11月25日号掲載)