【主張】はじまる「機能性表示食品」制度――命と安全には“規制”こそ必要

公開日 2015年06月15日

 「機能性表示食品」制度が4月からはじまった。生鮮食品をふくむあらゆる食品(アルコール類を除く)について、「目の健康に役立つ」、「肝臓の働きを助ける」、「健康を維持する」などの効能表示が許される。治験データは必要なく、参考文献を消費者庁に届け出るだけでよい。

 「機能性表示食品」は食品をまったく加工せず、特定の成分の効果を大きく言い立てることができるが、マイナスの作用を周知させる制度が全くない。グレープフルーツと医薬品の相互作用は広範囲におよぶ。ω3脂肪酸が、抗がん剤の効果を阻害することも重大だ。

 食事は偏食を避けて、多品目を摂取することが原則である。特定の食品成分が多くなると、やがて分解酵素が増加して、期待した効果を打ち消す現象もある。

 従来の制度では、「栄養機能食品」がビタミンやミネラルの効果を表示でき、「特定保健用食品(トクホ)」は、高額な費用のかかる治験が必要だった。ただし、いずれも食品扱いであり、糖尿病や高血圧などの病名をあげて治療効果を表示することはできない。また、肉体改造、増毛、美白など、健康とは関係のない表示もできない。

 長寿社会では高血圧、糖尿病、高脂血症、骨粗しょう症などの慢性疾患が注目され、生活習慣病ということばの普及とともに、病気を予防する意識が高まっている。そして健康は生活環境、労働条件、経済状態と関係が深いが、これらを個人的に改善することは難しい。そこで、健康への関心は個人的な食習慣と運動療法に向かうことになる。

 米国において高額な医療費と保険料のために医療にアクセスできない人たちにとって、年間3兆円を超えるサプリメントには単なる食品の領域をこえて、医薬品のような効果が期待されていることは問題であり、制度を見直すべきだという意見も少なくない。

 日本では2000年、栄養成分の補給や健康のための食品のうち、錠剤・カプセルなど、通常の食品の形態でないものをサプリメントと定義した。つまりサプリメントは「医薬品のような形をした食品」である。

 ビタミン、ミネラル、抗酸化物質など、科学的な成分名が明らかなものは、その成分の効果が知られているが、過量摂取には副作用の恐れもある。また、プロポリス、グアバ、ノニ、ノコギリヤシなど、原材料丸ごとの名前がついたサプリメントは成分が不安定であり、また成分の多様さから、西洋医学の薬剤との相互作用が問題になりやすい。

 最近、インドや中国から輸入された天然の原材料から重金属が検出されたり、ジェネリック医薬品の不純物までが話題になっている。超一流企業でつくられた粉ミルクや食用油で、大規模な健康被害が出たこともある。新鮮な食品をわざわざ工業的に処理してから摂取することは、危険を冒すことになる。健康を望むならば、日々の食生活が基礎である。

 「機能性表示食品」制度は安倍政権が推進する成長戦略の一環として、健康食品や食品メーカーからの強い要望を受けて導入された。消費者庁の許認可は必要なく、企業責任でどんな機能性でも表示ができる。消費者庁による機能性表示食品の検査体制は極めて不十分で、健康を増進する保証はない。

 医療分野では、安全性、有効性が未確立な医療を「患者の自己責任」の名で広げる「患者申出療養」が創設されようとしている。患者の命と安全を軽視する規制緩和路線は、「機能性表示食品」で食の安全を脇に追いやる姿勢とも共通する。

 命と安全を守るためには、しっかりとしたルールと規制こそ必要だ。

(『東京保険医新聞』2015年6月15日号掲載)

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