【主張】国民健康保険の都道府県化――医療費・社会保障費抑制が狙い

公開日 2015年04月05日

 「社会保障制度改革国民会議報告書」(2013年8月)は、社会保障を「自助・共助を基本」とする制度に変質させるとともに、国保の都道府県化を病床機能報告制度・地域医療構想と一体的に推進するとした。既に都道府県化されている協会けんぽ、後期高齢者医療制度を合わせると全医療費の7割を超える。

 国保の都道府県化は、国民健康保険制度を再建するのではなく、国保保険者となる都道府県の権限強化によって他の保険者を束ね、医療費全体を抑制することが目的である。そして公費による財政支援を押さえ込み、国保料の上昇と徴収強化をもたらすものでしかない。

 いま、全国1,717の区市町村が保険者となり国保を運営している。そのうち1,260の区市町村が法律で定める額のほかに、一般会計から「法定外繰入金」を国保会計に投入している。政府はこの「法定外繰入金」を赤字とみなし、その解消を目指している。

 しかし、この「赤字」は小規模な市町村ではなく、大都市に集中している。

 2012年度の政府統計によると、一般会計から国保会計に投入されている「法定外繰入金」は総額で3,882億円である。そのうちの6割以上に相当する2,434億円を東京、神奈川、大阪、埼玉、愛知の区市町村が占めている。政府の狙いは、この「法定外繰入金」を解消し、ゆくゆくは保険料で徴収することにある。都道府県化は小規模国保の安定化のためという国の説明は成り立たない。

 実際、国保が都道府県化されるとどうなるのか。

 まず、1)都道府県は区市町村ごとに必要な医療給付費等の見込みを立て、各区市町村から都道府県へ納付する分賦金の額を決定する。2)市町村は都道府県が公表した標準保険料率(標準的な住民負担を公開)を参考に、被保険者から保険料を徴収して、都道府県に分賦金を「上納」する。3)都道府県が示す分賦金や標準保険料率は「法定外繰入金」をゼロで算出する。4)市町村の保険料徴収額が都道府県に支払う分賦金に満たない場合は、その差額を新たに創設される財政安定化基金から借り入れ、市町村は次年度の保険料に上乗せして返済することになる。

 このように、国保の広域化は、高額な分賦金を区市町村に押し付けるとともに、区市町村独自の減免制度や一般会計からの繰り入れを抑制し、医療費の増大を保険料の上昇に直結させる仕組みといわざるを得ない。

 一方、国は、国保の都道府県化に伴い、「法定外繰入金」総額に相当する3,400億円を2017年度までに投入するという。財源は、消費税増税分からの1,700億円と、被用者保険が負担する後期高齢者制度への拠出金増額で浮く国庫負担分2,400億円のうち1,700億円である。

 国の懐を痛めることなく、国保医療費の財源負担を、国民と被雇用者の保険料に強要する姑息なやり方である。それでも、「高すぎる国保料」、「払えない国保料」によって、国保2,000万世帯中、400万世帯が滞納している状況を解消するには足りない。

 国保被保険者は非正規労働者と退職年金生活者が7割を占め、平均所得は年83万円である。被用者保険は平均200万円であるから、その2分の1にも満たない。所得水準が低く、有病率が高いという構造的な特徴を持つ国保に、医療費の上昇がそのまま保険料の引き上げにつながる制度設計はありえない。

 都道府県化では国保が抱える構造的な問題は解決できない。国保財政に対する国庫支援を現在の20%台から80年代の50%台まで引き上げることが必要だ。また、広域化によって被保険者である高齢者の声が届かなくなった、後期高齢者医療制度の轍を踏まないためにも、国保は住民の顔が見える身近な区市町村によって運営していくべきである。

(『東京保険医新聞』2015年4月5日号掲載)