【主張】特定秘密保護法 12月10日施行――医師と患者の信頼関係を破壊 秘密保護法の廃止を求める

公開日 2014年12月05日

 12月10日に特定秘密保護法が施行された。同法は昨年末の法案審議の段階から国民的な議論・反対運動を巻き起こした。細部を決める運用基準と政令案が本来なら10月10日に閣議決定される予定が、与党総務会での合意が取れず、10月14日にずれ込んだといういわくもある。

 医療者が特に懸念するのは「特定秘密」を取り扱う者を選定する「適性評価制度」である。

 評価項目のなかに薬物の濫用・影響、精神疾患、飲酒についての節度などの項目がある以上、医師・医療機関も情報照会の対象となる。

 「薬物」は、麻薬や覚醒剤に限らず、医師が適切に処方した薬でも眠気やふらつきが発生するものも評価材料になる。「照会を受けた団体は回答義務がある」という国会答弁があった。

 医師や医療機関は、本来守秘義務のある患者プライバシー情報の提供を強要されかねない。患者にとっても、「照会を受けたら主治医は自分の病気や服薬状況を第三者に話すかもしれない」という状況では、医師を信頼しにくくなるだろう。自分の病歴や病状が職場に伝わることを恐れて、診療に必要な情報を主治医に伝えなかったり、そもそも受診しないという事態が懸念される。

 「適性評価制度」は国民のプライバシーを侵害し、医師と患者との信頼関係を破壊するが、秘密漏えい防止策としての効果は疑問だ。

 情報照会は「調査の補完のため」、「必要最小限」というが、それを判断する「監視委員会」が首相直属の内閣官房におかれる。そのような監視を信頼できるだろうか。また、秘密取扱者の秘密の漏洩、秘密取扱者以外の秘密取得行為、未遂、共謀、独立教唆といった行為に罰則が設けられているが、定義があいまいだ。

 秘密指定の範囲が非常に広範であるという指摘もいまだ解決されていない。特定有害活動(漏えいが日本の安全保障に支障を与えるおそれがある活動)は取り締まりの対象であるが、そもそも何が秘密かわからない上に、何が特定有害活動となるのかわからなければ、政府の政策に反対する人が不当に捜査を受け、処罰される危険がある。ある議員が「デモはテロ」と発言したことも忘れてはいけない。

 特定秘密保護法は、情報の漏えいやアクセスに対しては厳罰で臨む一方で、行政府側には実質的な義務規定がなく、何を秘密にしてもいいし、何をテロ行為と判断してもよいことになりかねない。安全保障を口実に、知る権利を奪って国民を国政から排除していく恐れがある。

 全国地方議会では秘密保護法に反対・慎重審議を求める意見書が210の自治体で採択された。秘密保護法に反対を表明した学者・研究者は分野を問わず4,000人近くにのぼるほか、日本弁護士連合会、マスコミ団体、ジャーナリスト、宗教団体も軒並み反対している。

 国民が医療を受ける権利を不当に侵害する点からも、私達はこの法律に反対する声をあげ続けていこう。

(『東京保険医新聞』2014年12月5・15日合併号掲載)