【主張】“消費税”再増税は最悪の選択だ

公開日 2014年11月15日

 4月に消費税が8%に引き上げられてから7カ月以上経過した。総務省の家計調査消費水準指数は4月以降落ち込み、9月まで低迷したままである。輸出も増加せず貿易赤字が拡大、設備投資も既存設備の更新投資水準に留まっている。また、「頼みの綱」の公共工事も予算化されながら実施されない「未消化工事高」が増加している。これらは景気が後退局面に入っていることを示しており、消費税を再増税すべきでないことは明らかである。

 アベノミクスを支持してきた米国のノーベル賞経済学者クルーグマン氏は「日本経済は消費税10%で完全に終わる」とし、逆に消費税は5%に戻して国民の期待インフレ率を引き上げるべきと述べている。

 米国のルー財務長官は消費税率を4月に引き上げて以降、個人消費と投資が落ち込んでおり「経済活動の縮小による困難に直面している」と懸念を示し、日本に対して内需拡大を維持するための政策を要請している。

 それにも関わらず自民党の谷垣幹事長は消費税率を上げたときのリスクは手の打ちようがあるが、上げなかったときのリスクは非常に不安があると述べている。

 10月31日に日銀が追加緩和を決定し、年金資産の株式運用率を高めることなども発表された。これが谷垣氏のいう対策なのだろうか。早速円が安くなり、株価が高騰した。株式等の資産運用に回る資金が増え、株価が上がっても、消費や景気の高揚につながることはないであろう。一般の国民が受ける恩恵は限られているからだ。むしろ円安による輸入物価の引き上げでインフレが加速する弊害が懸念される。

 消費税を上げなかったときのリスクとは何か。いわれているのは、財政悪化が進み外国人投資家が保有する長期国債を投げ売りし、国債の暴落、長期金利の上昇が起こるというものである。しかし、外国人投資家が保有する長期国債は35.2兆円にすぎず大勢に影響を及ぼす保有割合ではない。

 また、安倍首相は法人税を20%台にするという目標を掲げているが、法人税減税による税収不足は問題にしないというのもご都合主義である。本当の狙いは消費税を増税して法人税を引き下げることである。大企業の負担を国民に転嫁することは消費税の逆進性を強めることに他ならない。

 消費税増税は社会保障の財源を確保するためと喧伝されたが、今年6月に成立した医療介護総合法では保険料や負担金の引き上げとサービスの見直しばかりで、社会保障の充実は全くされなかった。

 企業の公的負担を軽減し、規制を緩和すれば企業活動が活発になり経済が潤い、その恩恵があまねく隅々に行き渡ると20年以上聞かされた。だが、規制緩和の結果は貧困が広がり格差が拡大するばかりであった。

 巨額の利益を上げ、内部留保を積み上げる企業でさえ、賃金の引き下げや大量解雇を行う有様である。実質賃金は8月まで14カ月連続して減少している。

 また、社会保険診療報酬が非課税とされ、転嫁できない仕入れにかかる消費税の負担が医療機関の経営を圧迫している。この控除対象外の消費税の解消にはゼロ税率(免税制度)が不可欠であるが、具体化の動きは全くない。10%になれば、医科の医療機関の平均負担額は360万円になると試算されている。負担の増加が医療を直撃し、医療崩壊に拍車がかかる。

 安倍首相がミラノで消費税増税について「日本経済に大きな打撃を与えるようなら意味がない」と先送りを示唆したと報じられたが、日本では財界、財務省、自民党をはじめ増税派の政治勢力、マスコミが手ぐすねを引いている。そんな躊躇で止まる話ではない。

 再増税を中止させる国民的な声をさらに大きくしていこう。

(『東京保険医新聞』2014年11月15日号掲載)