【主張】大企業が「稼ぐ」ため社会保障を削る ――「骨太の方針」「日本再興戦略」「規制改革実施計画」の閣議決定

公開日 2014年07月15日

 6月24日、政府は「経済財政運営と改革の基本指針」(骨太の方針)と、これと一体的な関係にある「日本再興戦略」(成長戦略)の改訂、ならびに「規制改革実施計画」を閣議決定した。

 政府はアベノミクスにより「日本経済が力強さを取り戻しつつある」、「経済の好循環が動き始めた」と自画自賛しながら、この「好循環」を引き続き回転させていくためには、「『稼ぐ力』を強化していくことが不可欠である」(成長戦略)として、「第一及び第二の矢を引き続き推進し、第三の矢である成長戦略の更なる推進」を宣言した。

 「骨太の方針」などの重点課題には、法人税率の引き下げ、企業に都合のいい働かせ方を労働者に強いる「残業代ゼロ社員」、「多様な正社員(限定正社員)」の導入、そして原発の再稼働など、多くの国民が反対の声を上げている問題を突破しようとする暴走姿勢があからさまだ。

 骨太の方針は、「財政健全化」対策の筆頭に社会保障給付費をあげ、「『自然増』も含め聖域なく見直し、徹底的に効率化・適正化していく」とした。アベノミクス第一及び第二の矢による大量の国債発行と巨額の財政出動で膨らむ赤字を、社会保障給付の抑制で帳尻を合わせようというものだ。「稼ぐ」ために社会保障を削り込み、借金の付けをまわすという最悪の方針である。

 「稼ぐ力」をキーワードとする成長戦略では、「公的保険外のサービス活性化」として「ヘルスケア産業を担う民間事業者が創意工夫を発揮できる市場環境の整備」など、健康・医療・介護関連企業が利益を上げられるような施策が並んでいる。そして「質の高いヘルスケアサービス」を提供するとして保険外併用療養費制度の大幅拡大、患者申し出療養の創設などが盛り込まれた。

 さらに、都道府県による医療費の上限設定、「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」の創設、保険者機能のいっそうの強化などをかかげ、都道府県ごとの医療費抑制と医療供給体制のコントロール強化を打ち出している。

 成長戦略では「非営利ホールディングカンパニー型法人制度」の創設について、医療・介護等を一体的に提供する新しい法人制度を設け、地域包括ケアを実現するため、複数の医療法人や社会福祉法人、介護事業者などを統括し、一体的な経営を可能にすると説明されている。しかしこれは地域の事業者と患者・住民を囲い込むメガ医療・介護事業体構想にほかならない。

 国は2017年度までに都道府県による国保運営を実施する計画である。後期高齢者医療と国保は公的医療費の7割を占めていること、そして地域の病床を機能ごとに再編する権限を都道府県に与えた「地域医療構想」が2015年からスタートすることを考えると、医療供給体制をコントロールする巨大保険者が誕生することになる。

 メガ医療・介護事業体と都道府県が結びつけば、医療・介護の供給体制とともに医療給付と保険料水準を都道府県ごとにコントロールする究極の「医療費目標実現体制」となるだろう。

 営利企業の「稼ぐ力」を強化するために社会保障を抑制し、市場に譲り渡して、国民の命と健康を犠牲にすることは許されない。

 経済とは経世済民「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」の意味だそうだ。民を痛めつける政策では日本経済を立ち直らせることはできない。このことを為政者は思い知るべきである。

(『東京保険医新聞』2014年7月15日号掲載)