【主張】暮らしやすい東京へ――新都知事に期待する

公開日 2014年02月25日

 新都知事には元厚労相の舛添要一氏が選出された。舛添氏は「原発に依存しない社会をつくる」と言いながら、「再稼働は政府が決めること」と原発再稼働を容認する発言をした。しかし日本は施策の8割以上で自治体が国に先行すると言われ、都民が圧倒的に原発廃止を求めている東京都の役割は大きい。脱原発は国民一人ひとりに問われる良心の問題でもあり、舛添氏は都民の期待に応えてほしい。

 世界では自然エネルギーが原発をはるかに上回る発電量に達しており、昨年(2014年)12月、世界銀行は原発への投資を行わないことを宣言した。日本では2年間も原発なしで過ごせることが証明された。原発に依存してきた日本の電気料金は米国の5倍、韓国の2倍で、おそろしく高コストだ。原発が「重要なベース電源」というのは、売電側に立つ「高収益なベース財源」の意味だ。

 都知事選の最中にNHKは、原発を議論しない方針を示した。商業マスコミも都政全般にわたる議論を回避し、選挙は形骸化された。舛添氏は厚労相のときに後期高齢者医療制度によって国民の怒りを買い、政権転落のきっかけを作った人物だ。また生活保護の母子加算廃止を推進したことでも知られる。今回の選挙でこれらが承認されたわけではない。都政を丁寧に論じる声が黙殺されただけである。

 しかし舛添氏が選挙戦の第一声で「知事の仕事は都民の命と財産を守ること。安心して安全に暮らせる東京を目指したい」と語ったことは高く評価できる。14年間にわたる石原・猪瀬都政は、老人福祉費が予算に占める割合を全国第2位から43位にまで転落させて、大規模公共事業に浪費を重ねた。いま東京は巨大な格差社会となっている。

 都民は医療・福祉、子育て、教育はもちろん、雇用、住宅、環境対策などで、都政の方針転換を求めている。舛添氏が都民の側に立ち、政府が進める社会保障の切り捨て・負担増を押しとどめ、暮らしやすい東京都を実現することを願いたい。特養待機者4万人、認可保育園待機児2万人というのは、氷山の一角だろう。14年間一戸も新設されず、とり壊される一方だった都営住宅を待ち望む人たちの問題も深刻だ。

 政府はとかく自助・自立を求め、共助・互助を強調するが、国が負担する公助をほとんどゼロにすることは許されない。日本はセーフティーネットが破れ放題で、ひとたび失業、貧困、災害、難病に遭遇すれば、自力での回復が難しい社会になっている。公助は必要だ。

 舛添氏が東京五輪を「史上最高のものにしたい」と語るのは、モノではなく安全と「おもてなし」の心だというのは感動的である。氏はかねてより「ハード」より「ソフト」と発言してきた。五輪を口実にした大規模開発事業で浪費することなく、安全で暮らしやすい東京を目指してほしい。

 労働人口が減少していくわが国で、巨額の維持費が必要な施設を後世に残すことは罪である。東京都庁は利権の巣窟、伏魔殿と言われてきたが、前都知事は収賄疑惑のなか、わずか1年で退任した。新都知事が疑惑を解明し、都政の信頼回復に努めることを期待したい。

(『東京保険医新聞』2014年2月25日号掲載)