【主張】生きづらい社会でいいのか

公開日 2013年09月15日

 社会保障制度改革国民会議の最終報告を受けて、安倍政権は介護、医療、年金、保育の諸制度を改変する手順を、8月21日に閣議決定した。秋の臨時国会に「プログラム法案」として提出される。詳細は右表に示した通りであるが、社会保障の全面的な改悪であり、人が人らしく生きられる社会が、また遠くなる。

 介護保険では要支援1・2に該当する150万人を保険給付から外して地域自治体とボランティア活動に委ね、要介護1・2の人は施設から締め出すという方針が示された。利用料の引き上げも実施される。介護予防、介護の社会化を進めてきた努力が強力に押し戻されることになった。家族を介護するために離職する人が増加すれば、経済的困窮が表面化する恐れもある。しかし生活保護の認定は、門前払いする体制が固められつつある。

 医療では病床数の削減を意図する「病床の機能分化」が進められ、70~74歳の医療費窓口負担を2割に引き上げるという。失業と低賃金のために国民所得が減少するなかで、必要な医療を受けられない人が増加する恐れがある。消費増税が行われれば、受診抑制はさらに進むだろう。

 国民健康保険(国保)の運営を都道府県に移管することにも大きな問題がある。国保の加入者は中小企業の社員、高齢者、非正規労働者、失業者、疾病による退職者を含む無職者などであるが有病率が高く、年収に対する国保料の負担率が無慈悲なほどに高い。

 国保加入世帯の平均所得はおよそ147万円、課税標準額が約114万円であるが、東京都の場合でも国保料は15万円を超えている。年収300万円で4人家族のモデル世帯なら、国保料は東京都で約35万円(世帯所得比約18%)、最高額の函館市なら47万円(世帯所得比24.8%)にもなる。

 団塊の世代が後期高齢者に移行する2025年に向けて医療需要の増加が想定されている。国保の運営を地方任せにすれば、財政的な破綻を免れないだろう。国の責任を減らし続けてきた方針を改め、国庫補助率を引き上げることが先決だ。 年金については、支給額の機械的な削減が盛り込まれた。過去の世代を支えてきた高齢者への年金を減らすばかりでなく、やがて高齢者になる現役世代の年金も減ることになる。社会不安は増大するばかりだ。「持続可能な社会保障」はどこにも存在しなくなる。

 保育の分野では、保育士資格の軽視、保育所の施設要件の大幅な緩和、株式会社の参入などが盛り込まれた。小児の事故死は2歳以下に多く、精神面では「三つ子の魂百まで」とも言われ、幼少時の環境は大切である。この時期を無資格者、不適切な環境、営利企業などに委ねることには不安を禁じ得ない。未来を担う小児は国の宝である。

 国際競争力を強化するためと称して企業減税が繰り返され、税収は消費税に転嫁されてきた。しかしリストラと非正規労働化により国民総所得が減少し、国税収入は最近の20年間に20兆円も減少した。企業が繁栄すれば国が栄えるという話(トリクルダウンセオリー)は誤りであった。企業には応分の社会的費用の負担と、正当な給与の支払いを求めるべきだ。そして社会的弱者に負担の大きい消費税は廃止し、まともな福祉政策を実現しなければならない。

(『東京保険医新聞』2013年9月15日号掲載)