【主張】医療事故調 全国一つの第三者機関設置――“責任追及型”に強い懸念

公開日 2013年07月25日

 厚労省は5月29日に開催された「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」の第13回会議で、医療側の意見を無視するようなやり方で、なかば強引に結論を取りまとめた。厚労省は、医療事故の調査を行う『第三者機関』を設置し、全医療機関に「診療行為に関連した予期しない死亡事例」の第三者機関への届出を義務付ける内容の医療法改定案を今秋の臨時国会に提出する方針を明らかにしている。

 検討部会のまとめに基づく厚労省案は、1)医療事故調査に当たる第三者機関を設置する、2)診療所、助産院を含む、全ての医療機関に対し、診療に関連した予期しない死亡事例については第三者機関への届出を義務化する、3)医療機関は院内調査委員会を設置し、調査を実施する、4)院内調査には外部の医療専門家の支援を受ける、5)院内調査の結果を第三者機関に報告する、6)院内調査の結果を患者側に開示する、7)第三者機関は全国に1つ、各県に「支援法人・組織」を設置、8)第三者機関は院内調査の支援、院内調査の「報告書」の分析、遺族等の求めに応じて事故調査を実施する、9)第三者機関から警察への通報は行わない、などとなっている。

 厚労省案は、「原因究明と再発防止」を目的にするとの建前とは裏腹に、医療事故の責任追及を主眼とした制度につながるもので、今後医療界に大きな混乱をもたらすものになることが強く危惧される。

 WHOの医療事故調査に関するガイドラインでも、「医療安全のために事故情報を収集する事(学習を目的とした報告制度)と、責任追及のために事故情報を収集する事(説明責任を目的とした報告制度)は両立できない。両者を同時に求めれば前者が後者の犠牲になる」と指摘されている。

 医療事故調査は、医療安全と再発防止が国民にとって最大の目的であり、医療を受けるすべての国民の利益につながる。「原因究明と再発防止」と「当事者の責任追及」は切り離さなければならない。そうしなければ、リスクの高い診療科は敬遠され、医師不足はさらに深刻化する。医師不足は過重労働を生み、医療事故の発生は逆に増加し、結果的に医師、国民の双方が不利益を蒙ることになる。

 また、医療事故調査は全国に一つの調査機関だけに情報を集中させるのではなく、それぞれの地域で多様な形態の調査機関を手挙げ方式で自主的に作ることを認め、地域協議会のような緩やかな合意の下で医療事故調査を進めることも考慮すべきだ。

 厚労省は秋の臨時国会に向けて、改定法案の詳細や具体化に向けての各種ガイドラインの作成を進めている。医療事故調査が国民全体の利益につながる「医療安全」と「再発防止」に徹する制度となるよう、世論に訴え運動を強めることが求められている。

(『東京保険医新聞』2013年7月25日号掲載)