【主張】憲法は誰のものか――改憲派・護憲派「96条守れ」で一致

公開日 2013年07月05日

 近代国家は憲法を定め、時の為政者の権力から国民を守り、国政方針の安易な変更を避ける政治を選んでいる。これは立憲主義と呼ばれている。憲法は国家の基本的な条件を定めた根本法であり、国家の統治権、主要な機関が守るべき大原則を定めた最高法規として、他の法律・命令によって変更されることがなく、変えにくいことが特徴だ。

 国政の目的は何をおいても、国民の基本的人権の実現である。基本的人権は人間が生まれながらにして持つ権利であり、人種、信条、身分などによって政治上・経済上・社会上の差別を受けない。この基本的人権は、アメリカの独立宣言やフランス革命の人権宣言などによって、人間の本性に基づく法(自然法)として確立された。「主権在民」の言葉は為政者にとって、時には厄介なものと感じられることがあるだろうが、政治の本分を忘れてはならない。

 憲法学、政治学の研究者が作る「96条の会」が発足し、5月23日、永田町で記者会見を行った。この席にはなんと、強硬な憲法9条の改憲派として知られる小林節慶応大教授も発起人として参加した。小林教授は「『憲法を国民に取り戻す』と言いながら、国民の義務を増やした自民党の『改憲草案』は、憲法が国民でなく権力者を縛るものという立憲主義を理解しておらず、話にならない」と切り捨てた。

 6月2日には、古賀誠・元自民党幹事長が新聞社のインタビューに応じ、憲法96条先行改定に反対する見解を明らかにしたことが報じられた。古賀氏は「憲法改定の研究・議論はやってよいが、実際の改定には慎重でなければならないというのが私の立場です。なかでも平和主義は『世界遺産』に匹敵します。96条を変えて憲法改正の手続きのハードルを下げることを、私は認めることができません。憲法改正の発議に各議院の3分の2以上の賛成が必要という現在の規定は、当然です」と述べた。

 参議院憲法審査会は6月5日、環境権など「新しい人権」に関して参考人質疑を行った。この席で改憲に積極的な自民党議員が「60数年間改憲されなかった憲法を変えるために衆参両院の3分の2以上の賛成を必要とする発議要件を定めた96条を緩和することで、国民は初めて憲法が自分たちの手にあると実感できる」と主張したが、小林節慶応大学教授は「改憲問題が長く議論されなかったのは、逃げてきた自民党の責任」と切り返した。96条先行改憲論についても「大阪の人につられて言い出すのは品がなさすぎる。堂々と9条から議論してほしい」と諭した。自民党議員が「自民党の改憲草案は、国柄や歴史、文化を国民と共有するものだ」と持論を述べたことに対して、小林教授は「そんなことを憲法で説教されたくない。『法は道徳に踏み込まず』という言葉が世界の常識だ」とはねつけた。

 先進諸国の憲法改正手続きを見ると、改正の発議には多くの国で国会の3分の2以上の賛成が必要なことを定めており、日本の改憲要件が特に厳しい訳ではない。日本国憲法が「世界で最も改正しにくい」という安倍首相の意見は明らかに誤りであるし、変えるには十分な議論と国民的な合意が必要だろう。政治を国会に付託しているのは、国民だ。

(『東京保険医新聞』2013年7月5日号掲載)