【主張】改憲の発議はできない

公開日 2016年07月25日

 第24回参院選は、最近3回の国政選挙の投票率が低下し続けていたために、投票率の50%割れが懸念されていたが、結果は54.70%だった。投票率はすこし回復したが、史上4番目の低さだった。投票率が低ければ、利益団体などが有利になり、民意を反映しにくくなる。

 自民党が56議席を獲得したが、27年ぶりの単独過半数(122議席)には、1議席およばなかった。また、自民、公明、お維新、日本、の「改憲4党」は合計77議席で、参院の3分の2(162)には1議席およばなかった。しかし諸派・無所属のうちの、改憲派4議席を加えれば165議席となる(本稿完成後、無所属の1名が自民党に入党した)。

 今回の参院選で特筆すべきは、32の1人区すべてで4つの野党が統一候補を立てた結果、予想よりも合計得票数を伸ばして11議席を獲得したことだろう。そのなかでも、原発事故が起きた福島と、基地問題を抱える沖縄で、与党の現職閣僚が落選した。またTPPで揺れる東北6県のうちの5県で、野党が議席を獲得した。勢力が拮抗して議論が深まれば、国民の関心が高まり、投票率も改善することが示された。

 マスコミは選挙の結果を「改憲勢力3分の2」と評価し、改憲が可能になったような論調である。しかし公明党は選挙前から「憲法9条を変更する考えがなく、改憲勢力ではない」ことを明言し、「改憲勢力3分の2というくくりは、政治的に意味がない」と言っている。おおさか維新の会代表も「9条改憲は時期尚早。緊急事態条項も憲法に入れる必要はない」と述べ、日本のこころ代表も「一つにまとまって、即改憲ということはまずない」と語っている。そもそも安倍総理自身が、選挙中の延べ100回以上の街頭演説で、憲法には一言も触れていない。

 自民党は自らを「改憲政党」と呼び、改憲が結党以来の悲願であると公言している。実際、安倍政権は集団的自衛権を閣議決定するや、改憲済みのように安保法案を強行して軍備を増強し、米軍と一体化した戦争の準備をしている。

 しかし、自民党は憲法改正草案まで作りながら、改憲についての公的な議論をしない。安保法制を強行した際に安倍総理は「次の選挙で国民の判断を仰ぐ」と言っていたが、選挙では憲法を語らなかったのだ。

 今回の選挙で安倍総理は経済のことだけを語り、「アベノミクス」を進めると主張した。しかしアベノミクスの実態は、『円安・株高の誘導+消費増税による法人減税』である。すでに破たんしたアベノミクスが、論点をぼかす「争点隠し」に利用されたようだ。

 いま日本にはさまざまな問題がある。解釈改憲による集団的自衛権、米国の戦争に加わる安全保障法制、国会決議とは異なるTPP秘密協定。住民が反対する沖縄新基地建設、原発と自然エネルギー、格差と貧困の問題、切り詰められる医療と福祉、などである。いずれについても、政府のていねいな説明が待たれている。

 日本外国特派員協会は国政選挙の都度、政党ごとの記者会見を開いているが、自民党は3回連続して出席要請に応じなかった。

(『東京保険医新聞』2016年7月25日号掲載)