保育所設置基準の規制緩和に異議を唱えます~子どもの命を守り健全な発達を促す保育政策を~

公開日 2016年10月14日

2016年10月14日

東京都知事
 小池 百合子 殿

東京保険医協会 サルビア会・就労環境部
部長 成瀬 清子

 小池百合子東京都知事は9月9日、国家戦略特区諮問会議で「小規模保育所」の年齢制限の撤廃、部屋の明るさや保育者資格をはじめとした設置基準の大幅な規制緩和を要望したと報道されています。

 「小規模保育所」は園庭を持つ必要がなく、ビルの一室でも開設が可能です。子どもの健全な発達には活発に体を動かすことが不可欠であり、2015年度に小規模保育所が国の認可施設に加えられた際も、対象を2歳児以下とする年齢制限が設けられ、活動量の増す3歳以上は対象外としました。部屋の明るさの基準も健全な発達を確保するために作られたものです。職員配置基準は従来のものでさえ、保育士資格を持つ有資格者を半数配置すればよく、子どもの安全を確保できるのか疑問視されてきました。

 厚生労働省が行った調査では2004年から2014年の保育中の死亡事故は160件で、死亡した163人の内訳は、認可保育所は50人、認可外保育施設は113人となっています。これを施設利用児童数当たりでみると、認可外保育施設の死亡数は認可保育所の約25倍になっています(※)。このことは認可外保育施設と認可保育所での保育の質が異なることを示唆していると思われます。

 本来すべての保育施設は認可保育所の設置基準を満たすべきです。今回、小規模保育所の設置基準を緩和すれば、保育環境のさらなる悪化を招き、子どもを命の危機にさらし、健全な発達に重大な影響を及ぼす恐れがあります。私たちは、国民の健康と生命を守る医師の団体として、保育所設置基準のさらなる規制緩和に重大な懸念を表明いたします。

 待機児童の解消は重要な課題ですが、待機児童問題は保育の質をどのように担保し、子どもの健全な発達をどのように保障していくか、この視点を抜きに語ることはできません。子どもの人権が損なわれることなく、子どもの健全な発達と安全を最優先する施策を講じるよう、小池都知事に以下の事項を要望いたします。

  1. 保育所の環境を悪化させる設置基準の引き下げは行わないこと 
  2. 認可保育所の拡充と保育の「質」向上に最優先に取り組み、その財源を確保すること 
  3. 認可・認可外を問わず保育施設への指導監督を早急に強化すること

以上

保育所設置基準の規制緩和に異議を唱えます~子どもの命を守り健全な発達を促す保育政策を~[PDF:92KB]

※参考:認可保育所と認可外保育施設の施設数と利用児童数

 ・認可保育所:施設数24,425カ所/利用児童数2,266,813人(2014年4月1日現在) 
 ・認可外保育施設(事業所内保育施設を除く):施設数7,834カ所/利用児童数200,721人(2013年3月31日現在)