【主張】地球温暖化対策 日本は火力・原発依存から脱却を――安全・クリーンなエネルギーを望む

公開日 2016年11月15日

 昨年末、パリで開かれたCOP21(気候変動枠組条約締約国会議)では地球の気温上昇を2℃未満に留めるため、CO2の排出量削減に取り組むことが合意され、今世紀下半期に実質ゼロ炭素化を目ざすという目標が示された。日本でも異常気象や熱帯性感染症が発生するなど温暖化の影響が広がっているが、気温上昇が2℃を超えると地球規模で「作物の生産高減少」や「利用可能な水の減少」を起こす可能性があるという。このままでは、わずか25年で2℃を超えてしまうというから、いかに切迫した事態であるかがわかる。

 ところが日本は、TPPを巡る国会運営が影響して11月4日に発効した「パリ協定」の批准が遅れ、11月7日から開かれたモロッコ・マラケシュのCOP22締約国会議はオブザーバー参加となる失態を演じた。そもそも現政権に温暖化対策を真摯に取り組む姿勢があるのか疑わしいのだ。

 政府のエネルギー計画は、化石燃料で最もCO2排出量が大きい石炭火力で、2030年度における電力生産の26%を賄おうとしている。この国策に乗って、すでに電力業界は48基・総容量2,282万kWの石炭火力の新設・増設を計画しており、全てが稼働すればCO2排出量が約1割増えることになる。

 石炭火力に比べてCO2の排出量が2分の1であるLNG(液化天然ガス)ではなく、燃料費が安い石炭火力を重視した政府の計画は、CO2削減より、電力産業界の利益を優先させたものといわざるを得ない。

 脱原発、再生可能エネルギーへという世界の趨勢に逆行し、国民の命よりも産業界の利益を優先する姿勢が、最も表れているのが原発だ。

 「重要なベースロード電源」と位置づけられた原子力発電は、2030年度の電力供給目標が20~22%とされた。ところが、原発の発電量を20%台まで引き上げるには、現在休止中を含め、既存の原発42基のうち37基を稼働させなければならない。原発のほぼ全面再稼働である。しかも、電力供給が需要を上回った場合に行われる出力抑制は、火力、揚水、再生可能エネルギーの順で実施されるため、原子力発電は最後まで残る仕組みになっている。

 石炭火力と原子力を優先し、巨大な電力産業の利益を温存する一方で、押さえ込まれているのが再生可能エネルギーである。再生可能エネルギーの2030年度電力供給目標は22~24%でしかない。これはヨーロッパ諸国がすでに達成している水準であり、今世紀下半期に実質ゼロ炭素化を目ざす世界の温暖化対策に貢献するにはあまりにもにも少ないと指摘されているのだ。

 福島第一原発事故の放射能被害とその不安のなかで、未だ12万人が避難生活を強いられ、汚染物質の処理・処分、そして廃炉の見通しも立っていない。また、日本はCO2の排出量が世界第5位であり、世界の総排出量の4%を化石燃料の9割から排出している国でもある。再生可能エネルギーを飛躍的に引き上げて、原子力と化石燃料によるエネルギー依存から脱却することが内外からも求められている。

 さらに再生可能エネルギーは中小事業者の取り組みが可能であり、新たな産業を生み、雇用も含め、経済面でも環境面でも地域の持続可能なエネルギーシステムとして重要な意味を持つ。

 すでに諸外国では給電指令所が発電量を常時把握し、遠隔操作で調整する体制によって、安定的な系統運用が可能になっており、気象状況に左右されやすいという不安定性も克服されつつある。再生可能エネルギーこそ、国のエネルギー政策の根幹に据えるべきであろう。

 平和でクリーンな、そして地域の人々を豊かにするエネルギー政策への転換を望みたい。

(『東京保険医新聞』2016年11月15日号掲載)