【主張】問題だらけの新専門医制度

公開日 2016年11月25日

 2017年からスタート予定であった「新専門医制度」は、多くの医療界から反対・疑問の声が上がり、当面延期することだけは決まった。日本専門医機構は、トップの理事長をはじめ、ほとんどの役員が刷新されたが、前途は多難と言わざるを得ない。そもそも、何のため、誰のための新専門医制度なのか、そのガバナンスも明らかにはなっていない。

 東京保険医協会勤務医委員会では、10月1日「専門医制度は本当に必要なのか?」という、刺激的な表題でシンポジウムを行った。厚労省の担当官も交え、現役の医学生など様々な立場から議論が行われた。国民に、より良質な医療を提供するためにも「専門医」は必要だが「日本専門医機構」は必要ないよね!という意見が、一番説得力があると感じられた。

 物事は立場により意味と価値が変わる。財務省・厚労省は、医師の偏在(現状が偏在かどうかは別として)医師数のコントロールに利用したいという立場だ。現在の機構は、その道具にしか見えない。国民の立場から制度を考えると、日本のどこでも一定の水準で高度医療が受療できる制度となること期待しているであろう。女性医師・医学生は、ワークライフバランス(結婚・出産・育児を含めて)のなかで女性として輝けるような制度を期待しているであろう。医学生は、情熱をもって研究や臨床に没頭でき、真の意味で社会貢献できるような制度となることを期待しているであろう。地方都市の人たちは、都市部に必要な医師が集中しないで、おらが町にも医師が充足するような制度を期待しているであろう。

 シンポジウムで、6月まで日本専門医機構の副理事長を務めていた有賀徹氏は「医療資源の公正な配分」という視点を強調するとともに、次のように議論を締めくくった。「新専門医制度をやるなら、全領域一気に実施するのではなく、五月雨式にすすめ『10年経ったら制度ができていた』という流れにしないと、うまくいかないのではないか」

 利権が優先され、強引に制度設計されれば、医療崩壊を招きかねないことは明らかである。東京保険医協会は、これからもこの問題の本質を明らかにするとともに、真に国民医療と当事者である医師の未来に資する制度となるよう努力するものである。

(『東京保険医新聞』2016年11月25日号掲載)