医師法第21条〔異状死体等の届出義務〕に関するアンケート(第一報)

公開日 2017年01月25日

佐藤一樹先生

正しく解釈し、日本医師会改正案に反対する病院長が多数

東京保険医協会 勤務医委員会  佐藤 一樹

はじめに

 2016年9月、大学病院(102施設)、国立病院機構(149施設)、各都道府県の公的主要病院(197施設)およびそれ以外の東京都の病院全て(553施設)の計1,001人の病院長に「医師法第21条[異状死体等の届け出義務]と医療法で定義された『医療事故の報告』の正しい理解」に関するアンケートを行い230件の回答を得た。その第一報として医師法21条について限定して結果と考察を簡潔に報告する。

背景と目的

 前世紀末から医師法21条の誤解(医療過誤を異状死体とする考え)が蔓延し、「異状死体」の警察届出数は2002年(118例)から急増して'04年(199例)をピークに3桁が続き、'12年(87例)から2桁に減少して'14年も88例、'15年は47例と'97年(12例)のレベルまでは回復しないまでも大きく減った。嚆矢となる最高裁刑集掲載判例('04年4月)の「外表異状説」の普及や、平成27年度からの死亡診断書記入マニュアルの改訂、医療事故調査制度開始を契機に各医療機関(施設)における管理者の法律再確認などが涵養されてきたことが減少の背景として推測される。

 ところが、日本医師会(日医)は'16年2月、臨時答申「医師法第21条の規定の見直しについて」を発表した。答申の改正案は、「医師は、死体または妊娠四月以上の死産時を検案して犯罪と関係のある異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」に変更し、同33条の2(罰則)から21条違反を削除するものである。

 この案は上記の時代の流れを読めず頑迷固陋の感がある。現行では「外表異状のない過誤・過失」には警察届出義務はないが、日医案は「業務上過失致死傷罪(犯罪)と関係ある事案」は、なんらかの異状があれば警察に届出する拡大案である。そもそも、憲法38条(何人も、自己に不利益な供述を強要されない)を捨象していることから法制局が取り合わないレベルと思われる。

 そこで、協会では全国主要病院の病院長の①外表異状説の支持、②日医改正案の賛否をアンケート調査した。

結果

(1)外表異状説支持は、全体(230人)の84.8%(195人)、日医会員(169人)では86.4%(146人)
(2)日医改正案賛成は、全体の20.0%(46人)、日医会員では20.2%(34人)、A会員(103人)に限ると15.5%(16人)

①医師法21条「外表異状説」の支持率
(1)医師法21条「外表異状説」支持率
②医師法21条日医改正案の賛成率
(2)医師法21条日医改正案の賛成率

考察・結語

 8割5分の施設の病院長が「外表異状説」を支持したことから、医師法21条誤解の歴史は終焉に向かうと予測される。厚労省は最高裁判決から遅れること8年7カ月が経過した'12年11月26日に、医政局医事課長が事故調検討部会で、'14年6月10日には国務大臣が参議院厚労委員会で正しい解釈を明言している。ところが、日医だけが、逆の立場である。

 日医の改正案に首肯する病院長は5人に1人しかいないことを考えれば、日医は答申を取り下げるべきであるといえよう。

(『東京保険医新聞』2017年1月25日号掲載)