【主張】国民の健康と「カジノ」法

公開日 2017年02月02日

 昨年末、「統合型リゾートの整備を政府に促す法律」(以下「カジノ法」と記載)が、自民党、維新、公明党などの賛成多数で成立しました。政府は1年以内にカジノ解禁の実施法案を策定することになります。世論調査では「反対」63%(時事通信社)と国民の大多数が疑問をもつなかで、法案提出から一カ月、ほとんど議論もなく法律が作られました。

 過去、世界中のほとんどの先進諸国が、賭け事を禁じようと努力しても成功した例はありませんし、賭け事は不健康であり、コントロールすべきではあるが、法律で禁じることには無理があるともいわれています。

 しかし、現在、わが国には世界に比類ないほどの「ギャンブル障害」が存在し、その結果、毎日生命が失われており、子どもを含めた多くの不幸をうみだしている事実があります。こうした事実に目を背け、さらなる悪化を招くことが明瞭な法律をつくることの無神経さに怒りを覚えるものです。

 長きにわたって、ギャンブルへの依存は意思の薄弱さ、社会規範に反する逸脱行為に過ぎないとみなされてきましたが、1970年代以降、世界中で「ギャンブルへの依存」を精神疾患として認識し、これに対して医療を含めた社会的な対策がとられるようになってきました。

 世界の基準でみると、我が国のギャンブル障害の有病率は、男性で9.6%、女性1.6%(2008年厚生労働省)と、アメリカの0.6%、マカオの1.78%などと比較して極めて高い数値です。また、有病者数は536万人と北海道の人口と同じです。こうした原因の中心が、全国の街中のどこにもATM付きで文字通り朝から晩まで開店している12,000軒のパチンコ屋で、世界中のギャンブル機器の3分の2の台数が日本にあることです。

 刑法で賭博は禁じられていますが、例外とされる6種類の公営賭博の売り上げが約6兆円あり、パチンコ(パチスロ)は、その3倍以上の約19兆円あるのです。
 ギャンブル障害の特徴のひとつは周囲にいる人間に大きな健康被害を与えることです。パチンコ駐車場へとめた車内に乳幼児を放置した事件など、賭博が原因となる事件も後を絶ちませんし、ギャンブル障害を家庭で目の当たりにして育つ子どもは、成人後にも、対人関係障害や抑うつなどの問題を抱える傾向もあるといわれています。

 第二次世界大戦後現在に至るまで、日本ばかりでなく世界中の国でギャンブル・ブームを招いています。その理由としては、経済の投機性や、安定した労働への信頼感や充足感のなさが考えられるでしょう。しかし、最も大きな要因は、そうした不安につけこんだ「賭博をあおる」商業主義であることは日本の実情を見ても明らかなことです。

 こうしたときに、「カジノ法」の制定は、とんでもない愚挙です。カジノ解禁は、いまでさえ世界最悪のギャンブル障害の患者数をかかえる日本で、その害悪がいっそう広がることは火を見るよりも明らかです。

(『東京保険医新聞』2017年2月5日号掲載)