【主張】「壁に耳あり、障子に目あり」―共謀罪法案の危険性―

公開日 2017年02月14日

 「共謀罪創設法案」(組織犯罪処罰法改正案)が今国会予算委員会などで論議されている。

 過去3回、廃案とされてきたこの共謀罪法案を政府はテロ等組織犯罪準備罪と名称変更し(組織的犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪)、準備行為も要件に加えたからこれは共謀罪ではないと主張しているが、その本質は変わらない。

 政府は共謀罪法案が成立しなければ2020年の東京オリンピックに向けテロ対策強化ができず、オリンピックを開催できないとまで強弁している。一方、テロ対策は現行国内法で十分できていると日本弁護士連合会ほかは、いっており、逆にこの法律がもたらす危険性の大きさを警告している。

 そもそも共謀とは二人以上のものが特定の犯罪の実行の合意をすることで、はっきりした書面や言葉でなされなくても黙示的行為、たとえば目配せやうなずきだけでも成立するとされている。なにをもって合意がなされたかを判定するのかについて、これまでの国会での審議過程でも、政府側の答弁は結局のところ「ケースバイケース」であった。

 日常的にも見られる目配せや、うなずきなどが共謀のサインかどうかは捜査当局が状況から判断するということである。準備行為についても、預金を下ろす、飛行機の切符を買うなどありふれた行為も場合によっては準備行為になりうるが、認定するのは捜査当局である。共謀も準備行為も最終的な判断は捜査当局の恣意にまかされているのだ。

 戦前、戦争に反対する人々の取り締まりに猛威を振るった治安維持法も、これと同じ性格をもっていた。故奥平康弘東大法学部教授は治安維持法について、次のように指摘していた。

「権力に枠づけを与えるという本質が法律にあるはずだが、治安維持法にはなかった。適用できる場合と出来ない場合の区別がはっきりせず捜査当局に任せられた」。

捜査当局の恣意による捜査を可能にした治安維持法を駆使し、戦前、政府は戦争反対の声を封じ込めていったのである。

 また、共謀罪を検挙するためには盗聴や監視カメラなどでの日常的な監視や、潜入捜査、密告等が利用される危険性も指摘されている。対象も組織犯罪集団に限るというが、一般市民が対象にならない保障はない。「壁に耳あり、障子に目あり」戦前頻用された言葉だというが、一般国民が監視の目を意識しながら生活していた様子をよくあらわしている。

 一般市民が日常的に監視され、話し合いや毎日のありふれた行為が罪に問われかねない社会、自由にものを言えない、戦前の日本を彷彿とさせる社会を共謀罪法案は日本にもたらそうとしている。

(『東京保険医新聞』2017年2月15日号掲載)