税制改正セミナー「医療機関の損税解消のため「ゼロ税率(免税)」の導入を」

公開日 2017年02月14日

税制セミナー写真(2)

 協会経営税務部は1月14日、「税制改正セミナー―平成29年度税制改正大綱を読み解く」を協会セミナールームで開催し、会員ら38人が参加した。講師は、保険医サポートセンター講師団の奥津年弘税理士(東京あきば会計事務所)。

「改正」案をどう見る

(1)目立つ大企業優遇

 昨年、本年の大綱に貫かれているのは、大企業法人税の減税、露骨な大企業優遇税制である。2015年には32.11%であった法人実効税率を16年度に29.97%、18年度に29.74%と2段階で引き下げている。
 しかし、政府の統計を見ても資本金10億円以上の大企業の内部留保は366兆円(2016年3月末)で前年度比6%増になっている。消費税・円安の影響による物価の上昇で国内消費は伸び悩み、給与収入は全く伸びず、法人減税をしても、内部留保が増えるのみで減税の意味がない。

(2)「朝令暮改」の与党方針

 消費税の税率引き上げは、実態としては大企業法人税減税のための財源だが、内閣の延命、選挙対策のために2度にわたり増税を延期した。

 さらに、配偶者控除は廃止から拡充に方向転換している。奥津氏は「内閣の延命、選挙対策のために、与党方針の税制さえ『朝令暮改』だ」と指摘した。

医療における消費税 「損税」解消の改正なし

 診療報酬等の医療費は消費税非課税のため、医療機関は仕入れに係る消費税をどこからも回収できず、「損税」を負担し続けている。国はこれまで診療報酬で補填してきたとしているが、正しい損税実態を反映しておらず、税制での解消が求められている。

 今回の与党大綱の検討事項では「…特に設備投資にかかる負担が大きいとの指摘を踏まえ、総合的に検討し、結論を得る」とするが、前年の大綱にはあった期限の記載がなくなっている。

 この点について奥津氏は「高額設備投資をした際の消費税還付を検討していると言うが詳細が見えてこない。また現在、医療機関は規模を問わず『損税』の増加と診療報酬の実質減のため、大幅に利益を減少させている。8%でも影響が非常に大きかったが、何の対策もとられずこのまま10%に増税されれば、さらに事態は深刻化する。抜本的な解決は、協会が主張している『ゼロ税率』しかない」と強調した。

配偶者控除
居住者の合計所得金額 給与収入 控除額
控除対象配偶者 老人控除対象配偶者
900万円以下 1,120万円以下 38万円 48万円
950万円以下 1,170万円以下 26万円 32万円
1,000万円以下 1,220万円以下 13万円 16万円

税制「改正」案個人所得課税では配偶者控除等の見直し

 個人所得課税では、配偶者控除、配偶者特別控除の見直しが行われる。実施は2018年1月から。財務省の試算では300万世帯が減税、100万世帯が増税になるとしている。

 注意すべきは、(1)合計所得金額1,000万円(給与収入1,220万円)超の居住者(世帯主)は配偶者控除の適用がなくなり、大幅な増税になること、(2)配偶者特別控除は、配偶者本人が150万円稼いでも税金が生じないわけではなく、配偶者本人の非課税点はあくまでも103万円で変わらないこと、(3)130万円以上であれば社会保険独立加入の壁があることである。

 奥津氏は、「配偶者がもう少し働こうということにはならない。偽りの拡充ではないか」と指摘した。

マイナンバー導入後初の確定申告、記載なくても受付ける

 奥津税理士は、「巷ではマイナンバーの提出がなければ、手続きができない、提出は義務などと説明されているが、大きな間違いである」と指摘した。

 今年の確定申告は、マイナンバー導入後の初の申告となる。申告書にマイナンバーの記載がない場合の取り扱いはどうなるのか。国税庁が公表している「個人番号及び法人番号の取り扱いに係る事務実施要領」では、マイナンバーの記載がない場合は「記載の指導」を行い、「記載可能」となれば本人確認等を行うことになるが、「記載不可」の場合は「番号制度に関するチラシ交付」をして、「収受」することになる。

 奥津税理士は、「実はマイナンバー記載なしが、最も早く収受される」「税務署側も本人確認等の手間が省ける」ことになると述べた。また、郵送の場合は指導の余地もないので、そのまま受け付けられることになる。

税制の抜本的転換が必要

 日本では格差が拡大、特に子どもの貧困が深刻化している。奥津氏は「租税立法上の原則は『応能負担原則』。だが、安倍内閣の税制は大半が応能負担原則に反している。抜本的転換がなければ多数の国民が貧困に向かい、介護離職・生活保護が増加し、出世率低下は止まらないだろう。社会の不安定化が進み、教育・技術立国としての社会活力が失われる」と厳しく批判した。

 (『東京保険医新聞』2017年2月15日号掲載)