公開日 2017年02月22日
公的サービスの産業化
2015年6月に閣議決定された「骨太方針2015」に基づき、経済財政諮問会議が同年12月に発表した「 経済・財政再生計画工程表」(工程表)は、社会保障を総合的に改悪する政府全体の進行表である。「公的サービスの産業化」をうたい、負担増と給付の削減を行う一方で、安倍首相の言う「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりのため、健康の自己責任を国民に押し付けながら、医療・福祉を含め社会保障分野の市場化を進めるものに他ならない。
社会保障全般に向けた改悪
今国会では、▽現役所得並み介護利用者負担を3割へ▽被用者保険の介護保険料引き上げ▽介護療養病床廃止による新施設類型(介護医療院)創設などの法案が提出されている。今後も、医療、介護、福祉、年金、生活保護など社会保障全般の改悪が狙われている(下表)。
医療・介護 |
〈2017年1月の通常国会へ法案を提出〉 |
・現役所得並みの介護利用者負担を2割から3割へ引き上げ(2018年8月から) ・介護納付金の総報酬割(2017年8月分から段階的に実施) ・介護療養病床廃止による新施設類型(介護医療院)の創設 ※介護保険利用料の原則2割負担に引き上げ案は見送り |
〈2017年度に実施〉 |
・4月 後期高齢者の保険料軽減特例措置の廃止 ・8月 高額療養費制度の引き上げ ・8月 高額介護サービス費の引き上げ ・10月 医療療養病床の医療区分Ⅱ・Ⅲに光熱水費の負担(65歳以上) |
〈2017年度中に結論〉 |
・生活保護受給者の後発医薬品の使用割合を2017年央までに75%へ ・日本型参照価格制の導入(先発医薬品価格と後発医薬品価格の差額徴収) ・生活習慣病治療薬等の処方ルール化 ・診療報酬の特例-都道府県単位で設定-の活用方策 |
〈2018年1月の通常国会へ法案を提出〉 |
・紹介状なし大病院受診の定額負担と選定療養の調整 |
〈2018年度に実施〉 |
・2018年4月の度診療報酬・介護報酬同時改定で対応する ▼7対1入院基本料を算定する一般病棟病床数の縮小 ▼病床数の地域差是正、医療療養病床の入院患者の重症度を適切に評価 ▼市販品類似薬の保険給付外しを推進 ▼生活援助を中心とした訪問介護の要件緩和と報酬引き下げ ▼通所介護の給付の適正化 ▼福祉用具貸与の見直し 福祉用具レンタル価格に上限設定(2018年10月) ・国保の都道府県単位化スタート ・国保の保険者努力支援制度の本格実施 ・後期高齢者支援金の加算・減算要件の見直し(対象は健保組合・共済組合) ・第7次医療計画スタート(2018~2023年度) ・第3期医療費適正化計画スタート(2018~2023年度) ▼外来医療費の地域差半減 ・第7期介護保険事業計画スタート(2018~2020年度) ・第4期介護保険給付適正化計画スタート(2018~2020年度) ▼要介護度別認定率の地域差縮小 ▼1人当たり介護費の地域差( 施設/ 居住系/在宅/合計)縮小 |
〈2018年度中に結論〉 |
・75歳以上の医療費窓口負担を原則2割に引き上げる ・かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担導入 ・介護の補足給付と同様に、医療保険でも金融資産等を考慮した食費・居住費の負担 ・スイッチOTC化された医薬品の自己負担引き上げ ・病床機能報告制度に定量的基準(医療資源投入量=診療報酬区分)導入 |
〈2019年度中に結論〉 |
・軽度者の生活援助やその他の介護保険給付を地域支援事業へ移行 |
〈2020年度中に結論〉 |
・地域医療構想の実現に向け付与された病床数コントロールの都道府県権限強化 |
〈2016年度~〉 |
・保険者による疾病の予防、重症化予防、介護予防等の取組を推進 ・個人による疾病の予防、重症化予防、介護予防等の取組を推進 ・被保険者へのヘルスケアポイントの付与や保険料への支援を順次実施 ・医療法人による医療・健康増進関連サービスの実施 ・看護師等の医療関係職種による民間の健康サービス事業での活躍推進 ・介護保険外サービスの創出(国家戦略特区を活用した混合介護の推進等) ・最終段階の医療を進めるプロセス普及のため、国民意識調査、検討会を順次実施。医療従事者による相談対応の充実、住民への普及啓発等、参考となる事例の全国展開 |
年金 |
・年金受給年齢の引き上げを2019年に向けて検討。法案提出も含めた必要な措置 ・高所得者の老齢基礎年金の支給停止は結論を得られ次第、法案提出も含め必要な措置 |
生活保護 |
・後発医薬品の使用割合の引き上げ 2017年央までに75%、2018年度は80%以上 ・医療扶助の適正化に向け、頻回受診等に係る適正受診指導の徹底を推進 ・受給者の健診情報の入手など健康管理支援の在り方を検討 ・生活保護脱却を促進するため、各種制度を不断に見直し、適正化を推進 ・生活保護制度全般を検討(2018年通常国会への法案提出含む) |
しかし、社会保障改悪の中身が明らかになるなかで、利用者・家族、現場担当者等からの批判が高まり、当初計画されていた介護利用料の原則2割負担化や、要介護1・2の生活援助外し、福祉用具レンタル料の負担増、かかりつけ医以外の受診時定額負担、一般病床の光熱水費負担などの法案提出は、2016年末に改定された「工程表」では見送られた。
官邸からトップダウンで負担増や社会保障の給付削減を求めてくる「工程表」に、厚労省社会保障審議会・医療保険部会や介護保険部会の反発も強い。
2018年度給付抑制システムが一斉にスタート
2018年度は「工程表」が位置づける「集中改革期間」の最終年度であり、以下に挙げる医療・介護の公的給付抑制システムを一斉にスタートさせる年となる。
▽地域医療構想等で2025年までに慢性期病床を中心に最大20万床を削減しようとする第7次医療計画▽安上がりな在宅ケアを地域に押し付ける地域包括ケアシステムを柱とした第7期介護保険事業計画▽外来医療費の地域差半減を目指す「第3期医療費適正化計画」▽要介護度別認定率の地域差と一人あたり介護費の地域差を縮小しようとする「第4期介護保険給付適正化計画」▽国保の都道府県単位化▽医療費抑制に貢献した国保に交付金を支給する保険者努力支援制度の本格実施などが始まる。
そして、医療費適正化計画の進捗状況等を踏まえ、都道府県毎に設定できる特例診療報酬の「活用方法」について2017年度中に結論を出し、2018年4月の診療報酬・介護報酬の同時改定により、医療機関や介護事業所など供給側の報酬を操作することで、医療・介護の「公的給付費の抑制連動システム」を2018年度から稼動させようというのが「工程表」の狙いだ。
連続改悪阻止の声を広げよう
国民の生存を脅かし、格差と貧困を拡大させる「工程表」どおりに事を進めさせてはならない。社会保障の連続改悪を止めさせる世論と運動を広げていくことが重要になっている。
(『東京保険医新聞』2017年2月25日号掲載)