【主張】暮らしを支える都予算を望む

公開日 2017年03月17日

 2017年度東京都予算案が都議会定例会で審議されている。小池百合子都知事が誕生して初めての予算案だ。

 政策的経費である「一般歳出」は前年度比291億円減(0.6%減)の5兆642億円だ。注目された「福祉と保健」分野は、前年度比349億円増(3.0%増)の1兆2017億円になり、一般歳出に占める割合が23.7%で過去最高を更新した。待機児童対策として1,381億円を計上し、都独自の保育士待遇改善(約298億円)を盛り込んだ。

 「教育と文化」分野は前年度比111億円増(1.0%増)の1兆1,073億円となった。都立高校における給付型奨学金の創設、私立高校特別奨学金補助の拡充などに164億円を計上した。一方、インフラ整備などにあてる「投資的経費」が前年度比224億円減(2.1%減)の1兆736億円で、13年ぶりに前年度比を下回った。不要不急の開発事業が若干見直されたといえるが、幹線道路や都市再開発など大型開発事業は依然として推進・継続される予算案となっている。

 五輪経費も一定の削減が進み、前年度に比べ「福祉と保健」、「教育と文化」の分野には改善が見られる。なかでも、保育士の待遇改善、奨学金拡充を含めた「子どもの貧困対策(総額757億円)」、バリアフリー化の推進(130億円)、難病・がん患者就業支援事業(2億円)などが打ち出されたことは大いに評価すべきだ。都知事の海外出張費が8割削減され豪華海外出張が見直されたことにも注目すべきだ。

 一方で、①介護職をはじめとした保育士以外の福祉職の待遇、②特別養護老人ホームの整備費、③高齢者福祉予算が拡充されていない、④不要不急の大型開発予算には大ナタが振るわれていない―などの課題もある。また都知事は、国家戦略特区諮問会議で「小規模保育所」の年齢制限の撤廃、部屋の明るさや保育者資格をはじめとした設置基準の大幅な規制緩和を要望し、同特区を活用した「混合介護」も提唱している。必要な規制が撤廃され、社会保障における都の役割=「公助」の質が低下するようでは困る。

 国会議員時代に「自助の精神を失ったら、日本は危ない。あまりにやさしすぎる社会は、結果として、みんなが痛みを受けることになると思います。ですから、人々とのつながりと自助の強化を進めるとともに、これまでの社会保障政策や労働政策の見直し、意識改革が重要なのです」と述べた小池氏の方針は果たして転換されたのだろうか。

 2017年度予算案は「メリハリをつけた予算」と強調されているが、「福祉と保健」分野で前年度比3.0%増、「教育と文化」分野で前年度比1.0%増と、都予算の全体から見ればわずかな変化にすぎない。都知事は「都民と共に大義と共感のある政策(東京大改革)を進める」「高齢者や障がい者の暮らしをしっかりと支えてまいります」(2/22都議会定例会施政方針)と述べた。その言葉に見合った、医療・介護・福祉をはじめとした「都民の暮らしを支える」東京都予算への大変革を望みたい。

 そのほか百条委員会を通じた豊洲新市場の疑惑解明、五輪経費のさらなる削減など、都知事と都議会の果たすべき役割は大きい。都政の暗に次々と光を当て始めた都知事に、都民の切実な要求を反映した2017年度東京都予算を期待したい。

(『東京保険医新聞』2017年3月15日号掲載)