東京ER構想と都立病院の役割

公開日 2000年09月05日

石原東京都知事は、東京発「医療改革」と称して、東京ER(総合救急診療科)構想などを発表し、都議会でも大きな論議になっている。この構想は、日本の医療には「透明性」「信頼性」「効率性」が不足しているとして、「365日24時間の安心」「患者中心の医療」を掲げ、東京から日本の医療を変える「東京発の医療改革」を実現するなどと称するもので、この一環として東京ER(総合救急診療科)を計画的に配備するという構想を打ち出した。

具体的には、広尾、墨東、府中の都立三病院に、現行の救急救命センターと初期・二次救急に対応する救急診療部門を、一般診療部門とは独立した部門として2年以内に整備するとされている。また、「都立病院改革懇談会」(仮称)を設け、公社化、民営化も視野に入れた経営形態を含め、都立病院全体の再編整備の検討を開始することになっている。

しかし、今回の都立病院のER化構想にはいくつかの疑問がある。第一に、ERを実現するには医師・看護婦などスタッフの相当数の配置が必要になり、そのうえ現在の診療報酬体系のなかでは大幅な不採算医療にならざるを得ない点である。都立病院に対する補助金は財政再建プランに基づく削減方針が堅持されており、人員削減も行われている。必要な人員や予算を新たにつけてER化を行うつもりが本当にあるのかという疑問である。

第二の疑問は、民間医療機関との機能分担や連携はどうなるのかという疑問である。本年8月に発表された「衛生局改革アクションプラン」では、「初期救急医療や小児救急医療などの一層の充実を図り、救急医療全体のレベルアップを図っていく」「地域の医療機関との連携を図りながら、小児救急医療の充実を図っていく」などと指摘されているが、具体的な施策等は示されていない。ER化による初期・二次救急の取り込みは、民間医療機関との競合にもなりかねない。「365日、24時間の安心」を実現するには、初期・二次救急の大半を担っている民間医療機関との機能分担と連携、民間医療機関に対する支援が欠かせない。

石原知事は、いかいも都民受けしそうな東京ER構想を宣伝しながら、都立病院については不採算医療からの撤退やこれまで以上の徹底した独立採算制を取り、経営形態も民営化も視野に入れて検討する方針と伝えられている。毎日新聞によれば、7月17日に徳州会病院理事長の徳田虎雄衆議院議員(自由連合)が都庁で石原知事と会談し、都立病院の一部を徳州会が運営する考えを提案していると伝えている。

しかし、都立病院は民間医療機関では対応が困難なものや地域で不足する機能を補うとともに、オープンシステム化や開業医への逆紹介機能の重視、高齢者や小児の緊急入院用ベッドの確保、精神・難病医療の重視など、民間医療機関との連携や支援を重視した運営を行うことが求められている。都立病院が本来果たすべき役割を無視して、経営効率の追求や不採算医療からの撤退、公社化や民間委託などが検討されることのないよう要望したい。

東京保険医新聞2000年9月5日号より