危険な混合診療容認の姿勢

公開日 2001年08月25日

保険医療を破壊する「混合診療緩和」論、「自立投資」論に断固反対する立場が本年3月の保団連理事会で既に承認されている。

では、今なぜ混合診療に反対しなければならないのか。今までの混合診療の歴史を顧みながらその問題点を明らかにし、混合診療に対する我々の立場を明確にしたい。

保険診療を蝕む「混合診療」拡大の歴史

現在の保険診療では特定療養費や特に明記されたものを除けば、一連の診療の中で保険診療と自費診療とが混在することは認められていない。

1950年代から、歯科診療では材料差額を初めとする差額徴収が拡大されてきた。その結果、歯科診療では差額徴収に依存し、国民に深刻な歯科医療不信をもたらした。1980年以降は高度先進医療や差額ベッド、入院食事などアメニティに関わる部分を特定療養費として差額徴収が合法化された。それ以後も紹介なし初診料、時間外診療、予約診療、特定の材料を使用する歯科診療など医療そのものにも拡大され、現物給付のなし崩し的破壊がすすめられてきた。すなわち、保険で給付する医療の範囲を限定するという方向性が既に打ち出されて来たと言えよう。その点で注目すべきは、介護保険で、現物給付ではなく、療養費払い制度が原則にされたということである。

一方患者側からみると、特に高齢者世帯の所得は、公的年金・恩給のみの世帯割合が6割を越えており、1999年は年収200万円以下の世帯が39.2%で中央値が230万円となっている。年寄り金持ち論とはとてもいいがたい状況にあると言えよう。一部負担増が進む中で、自費部分が拡大されると、経済的理由による受診抑制が一層進むことになる。

混合診療に対する保険医協会の見解

今年の3月に財政制度等審議会が行った世論調査では、「国の予算で役に立っていないもの」の第1位が公共事業で43%、第2位が軍事費で24%。「これらの予算を減らして欲しい」との回答が93%であった。このような声を反映させるための改革こそが国民の望んでいる改革である。

小泉政権の下、総合規制改革会議は6月21日「基本指針」が公表され、7月24日に会議素案が、中間報告として公表された。その内容は、1.医療機関経営への株式会社の参入、2.医療の標準化、3.混合診療の緩和、4.広告規制の緩和、5.保険者と医療機関との直接契約、6.「205円ルール」廃止と、それにともなう薬剤一部負担金の拡大等が提起されているが、なかでも混合診療の容認は、現物給付制度の崩壊、つまり、皆保険制度に逆行するものである。これに対し、日医は医療の公共性・公益性崩壊の危機と述べて反対の声明を発表している。

患者負担の増大、フリーアクセスの崩壊、そして患者の差別化に繋がるこの「基本方針」には、断固反対していかなければならない。

保険医療の限界感から保険医の一部に「混合診療の緩和」や公私混合保険システムといえる「自立投資」(公的保険と自由診療保険の併存)を容認する声が生まれている。また国民の側からは、「ヤミ医療費」ともいわれる歯科差額や差額ベッド代など保険ルールで認められているとはいえ、国民には理解しにくい差額徴収に対する不信と不満が高まっている。これに対応し『「一定のルール」の下に差額徴収を認める』などを内容とする日医総研のレポート(いわゆる川渕レポート)が発表され、中医協でも保険外負担のルール化がすすめられようとしていたが、保険外負担の合法化=混合診療緩和論の動向には、今後とも注視していく必要がある。

いま、戦後の医療の根幹を担ってきた国民皆保険制度に重大な危機が到来している。この重大な時期を見失うことなく、保険医と患者の立場から、この流れを変えていかなければならない。

東京保険医新聞2001年8月25日号より