医療費総枠制と医療構造改革で明日が拓けるのか

公開日 2001年09月15日

経済財政諮問会議は「基本方針」のなかで、医療費総額の抑制を打ち出し、患者負担増、保険者と医療機関の直接契約、営利企業による医療機関経営、自費と保険の混合診療により公的保険の給付範囲を縮小するなど、皆保険制度の根幹さえ崩す方向を示した。

この方針を受けて、来年度政府予算の概算要求では、医療の自然増分を2800億円削減する方針が決められた。国庫負担割合を勘案すると1兆1000億円もの医療費を削減するものであり、その規模は97年に実施された健保本人2割負担等に匹敵する「抜本改革」が計画されている。このままでは日本の医療は重大な危機を迎えることは必至だ。

すでに厚労省は、高齢者医療については1.マル老の対象者を70歳から段階的に75歳まで引き上げる2.高所得者は現役世代並みの負担とする3.患者負担を定率1割に統一し、上限を撤廃すると報じられている。また、現役世代については健保本人、家族の入院時の負担を2割から3割に引き上げるなども検討されている。患者負担の大幅増による受診抑制によって、医療費の総枠を抑え込もうというものである。また、診療報酬の据え置き、引き下げや定額・包括制の拡大。さらに、特定療養費の拡大による保険給付範囲の縮小などにより「総枠」を抑制することも検討されている。

6月13日付朝日新聞は1面トップで、厚労省が医療費の総枠管理の方策として、診療報酬の単価の操作などで超過分を医療側の負担とする構想があると伝えている。こうした制度は、1993年にドイツで総枠予算制を設けたが、わずか4年で破棄した。フランスでは公立病院で採用されているが、保険診療の制限もあって、医療費のかかる患者は必要な医療が受けられなくなるなど、大きな社会問題にもなっている。

高齢化の進行と医療技術の進歩、患者・国民の医療への要求の高まりに伴い、医療費が増加することは自然かつ必然である。

日本の医療費は、先進諸国の中ではその経済力に比して低い。例えば、OECD発表の医療費(1998年)はGDP比では18位。それに対してWHO発表の健康達成度の総合評価(1998年)では1位(191カ国中)を達成している。この要因は、国民皆保険制度により外来受診が容易であり、重症化を防いできたことによる。こうした国民皆保険制度がもたらしている国際的な評価、実績をみず、医療の無駄論や保険財政の破綻論を説くのは、まさに国民を欺くものである。

97年に健保本人2割負担と薬剤別途負担が導入され、消費税が5パーセントに引き上げられる中、雇用不安等ともあいまって回復しかけていた日本経済は再び深刻な消費不況に落ち込んだ。不況であるからこそ、国の責任による社会保障の充実が必要であり、小泉内閣が推進しようとしている患者=国民への負担増計画は、景気の回復に逆行する施策でもある。

協会は、患者・国民本位の医療改革として、改めて1.医療への国庫負担の増額、2.高薬価の抜本的是正、3.早期発見、早期治療と健康増進による医療費の真の効率化を要求するものである。医療費の総枠抑制が「今の痛みに耐えれば、明日が開ける」ような性質のものなのか、医療担当者として、きっぱりとメッセージを送り返すときである。

東京保険医新聞2001年9月15日号より