憎しみと暴力の連鎖は望まない

公開日 2001年10月05日

卑劣なテロ行為に怒り、糾弾する。そして、テロを繰り返させてはならない。しかし、そのことと、報復戦争を認めるということとは別である。戦争で傷つくのは、一般市民と子どもたちである。

戦争の悲惨さは、広島・長崎の原爆、ベトナム戦争の枯葉剤、イラクでの劣化ウランの使用などを挙げるまでもない。罪もない市民や子どもたちが命を失うばかりでなく、生き延びても奇形、発癌などの後遺症に悩み、自然環境が破壊され、何世代もの人間や動植物が被害を受ける。

アメリカ市民は、本当に報復の戦争を望んでいるのだろうか。米NBCテレビとウォール・ストリート・ジャーナル紙が「武力行使には犯行責任者の解明が必要 米国民81%」という共同世論調査の結果を出している。

今までアメリカは、真珠湾攻撃を除き、戦争で自国が爆撃を受けるという経験をしていない。今回初めて暴力の質でも戦争と変わりない大きな被害を受けた。その衝撃と怒りは測り知れないが、それでも先の世論調査の結果やジョン・レノンの『イマジン』のリクエストが増えているのは、市民がテロ・武力行使・テロという「憎しみと暴力の連鎖」を望んでいないことを示唆する。米議会でただ1人、軍事行使に反対したバーバラ・リー議員への支持が高まっていることも頷ける。

もう少し時間があれば、今回の悲惨な体験をしたアメリカ市民が、暴力の本質を見抜き、復讐の戦争を行うことに慎重になっていくであろう。その前に、ことを進めようとするブッシュ政権や、湾岸戦争時の「乗り遅れ」を理由に自衛隊派遣や財政支援を言い出すような小泉政権に危うさをみる。

なぜアメリカは、テロの犯罪責任が明らかになっていないアフガニスタンに報復(戦争)をしようとするのか。いみじくも堺屋太一氏(『週刊朝日』9/28)は「戦争はインフレ要因、需要創造効果は大きい。テロ対策は不況要素。」と指摘する。傾きかけてきたアメリカ経済を立て直すのに、戦争による経済の活性化を狙うのか?

個別的・集団的自衛権の行使を除き「国家は、武力行使を伴う復仇行為を慎む義務を有する」と、国連は決議している。国会質問で福島瑞穂氏は、「自衛権の行使のためには、正規軍が侵略したというような武力攻撃が前提となる。テロリズムは犯罪であり、その報復として正規軍で他国を攻撃することは、国際法違反である」と指摘している。

政府は、湾岸戦争時に130億ドル(約1.5兆円)の血税を注ぎ込んでも、金で済ませたとの国際批判を考慮し、今回は早々と自衛隊派遣を打ち出した。しかしこれは、「集団的自衛権の行使は憲法違反である」とする1997年の内閣法制局の見解すら、なし崩しに破ってまで、米軍の後方支援に参加することであり、在日米軍基地のみならず、国内へのテロ誘発の危険性を増大させることでもある。

むしろ、いま求められているのは、憲法九条を生かした、外交面や国連での活動によって、テロを許さない国際的な包囲網づくりと、今回のようなテロを犯罪として法に則って処罰するために協力することである。

東京保険医新聞2001年10月5日号より