外来総合診療料の廃止と老人定率負担化による影響

公開日 2002年09月05日

医学的なニーズが多様化し受診状況も変わり、医療も専門分化しているなかで、1人の患者の診療が1医療機関では対応しきれない事例が増えてきた。診療報酬は本来、1医療機関ごとの出来高算定であるべきで、これにより現在の受診状況等にも対応できるものである。

しかし、1996年の点数改定で老人慢性疾患外来総合診療料(以下外来総合と表示)が設定された頃から、患者が複数の医療機関に受診し双方で保険点数を算定した場合、一方のみが算定という扱いが急に目立ってきた。

外来総合は、対象患者が専門外などの理由で他医療機関を受診する場合の相談に応じ、そのうえで調整連携もしていくという規定になっている。老人医療の受給者証に「外来総合」と記載するという、ただそれだけの手続きで「かかりつけ医」の役割が、課せられるという仕組みであった。

どこへでも自由に受診ができる、フリーアクセス制をそのままにして、診療報酬上も医療機関毎ではなく患者1人につきの診療報酬、いわば「他医療機関の指導料等まで包括した点数」を導入したものである。

それを今度は、複雑極まりない診療報酬を簡素化してほしいという声が多いことを理由に、厚労省は外来総合を本年9月末日で廃止する。協会で院内・院外処方について出来高と外来総合での算定点数を比較したところ、出来高算定では、院内処方でマイナス16%、院外処方マイナス40%となった。この影響を受けるのは、全国で2万、東京で3200の医療機関といわれている。

一般的に、投薬、注射、検査が多ければ出来高の算定点数が高く、それらが少なければ外来総合での算定点数の方が高くなるが、症状が安定している患者に関していえば、外来総合での点数算定のほうが圧倒的に高い。外来総合算定患者を多数抱えている医療機関にとっては4月改定実施分をはるかに上回る大打撃であり、死活問題にもなりかねない。

6年前に問題ありとしたわれわれの指摘を承知の上で導入した外来総合を、厚労省が、今になって「問題あり」を理由に廃止するのは筋が通らない。せめて、慢性疾患患者にはどんな診療報酬が適切なのか代替案を出し、廃止後の影響なども検討すべきである。

非常に乱暴なやり方で朝令暮改的政策を進める厚労省に対し、梯子をはずされた形の医療機関が怒りを感じている。長期展望のない厚労省に猛省を求めるものである。

さらに、出来高算定で記載事項が多く煩雑になり、事務的には記載事項が増えているので誤りや記載漏れ(病名など)の内容に注意する必要があり、幾重にも医療機関の負担は増加する。

患者負担が定率1割に変更される時期にあわせての廃止であり、患者の一部負担金の動向も気になるところである。特に、定額負担の廃止に伴い、保険薬局での負担が新たに生じ、医療機関の一部負担金に上乗せで加わり、患者にとって大きな負担になる。受診回数を減らしたり、あるいは受診を止めて重症化する患者のことが心配だ。

この結果、逆に医療費の増大を招く恐れがあり、患者個人の問題にとどまらない。高齢者しいては国民の不安を煽り、1997年の健保法改定後のように、日本の経済状況をさらに悪化させることすら懸念される。

10月に、改定老人保健法と外来総合廃止が同時に実施されることは、健康であることを願う国民と必要な医療を提供したい医療機関にとって、不安をもたらすだけだ。

国は2003年度予算で、さらに社会保障費を削減するといってはばからないが、国民の6割が社会保障に予算は使ってほしいと財務省・財政制度審議会のアンケートに答えている。国民の意向に沿って予算を使うべきであろう。

国民の願いを踏みにじり予算を惜しんだ「つけ」が後でまわってきたときは、「後の祭り」である。

東京保険医新聞2002年9月5日号より