来年度予算概算要求基準 社会保障費2200億円削減

公開日 2003年09月05日

政府は8月1日の閣議で、2004年度予算概算要求基準(シーリング)を了承した。医療や年金などの社会保障関係費について、04年度の自然増分は9100億円と見込まれていたが、今回の概算要求基準では6871億円増に抑えられたため、厚生労働省はその差額約2200億円の縮減策を年末までにまとめようとしている。

このうち、年金額を消費者物価の下落に連動して引き下げる物価スライドによって200億円(マイナス0.4%)削減することは厚労省と財務省の間で大筋の合意は得られおり、過去の物価スライド特例措置分約850億円(マイナス1.7%)についてもシーリング枠に盛り込まれていることから、合わせて1510億円が年金分野で縮減される見込みである。

さらに2200億円縮減分のうち、残りの1150億円は医療・福祉分野等で縮減しようとしており、生活保護費の物価スライドや診療報酬・薬価のマイナス改定などがターゲットになるのは必至の情勢だ。

医療費については経済財政諮問会議が引き下げを求めている。同会議が7月29日にまとめた『16年度予算の全体像』では、診療報酬・薬価について「近年の物価・賃金の動向を踏まえたものとし国庫負担を抑制する」と明記している。この方針通りに予算が編成されるならば、診療報酬が02年度に引き続いてマイナス改定となるのは避けられなくなる。

02年度の診療報酬の改定幅はマイナス2.7%であり、その年度の医療費の伸び率を1%と厚労省は見込んでいたが、02年10月からの老人定率負担の導入、03年4月からの健保本人3割負担の導入などで結果的には0.7%減となり、乖離幅は1.7%となった。つまり02年度診療報酬改定は実質4.4%のマイナス改定であったといえよう。医療機関経営は極めて厳しい状況に追い込まれている。

来年度予算の概算要求基準に盛り込まれた社会保障関係費2200億円削減は、6月27日に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」いわゆる「骨太の方針2003」の方針に沿ったものであり、小泉内閣が進める社会保障制度改悪の性格を如実に示している。「骨太の方針2003」では、社会保障給付費の抑制が謳われ、その穴埋めとして国民の自助努力や民間部門の活用を図ることが明記されているからである。今回の概算要求基準の枠内に社会保障費が抑えられれば、公的医療費も削減されることは必定である。政府は、保険診療の範囲を極力狭め、混合診療や株式会社による医業経営の参入を解禁することを目論んでおり、実施されれば国民の間で医療へのアクセスに格差が生じてしまうであろう。富めるものは良質な医療をうけることができ、貧しいもの・社会的弱者は満足な医療を受けられなくなるというように、貧富の差によって受けられる医療に格差が生まれるなどということは、憲法第25条で規定された生存権を脅かすものであるといわざるを得ない。

さらに、昨今の患者負担増の医療制度改悪によって受診抑制が拡がっているにもかかわらず、医療費も削減されることになれば、医業経営に一層の打撃を与えることになる。これでは保険診療の「質」を維持することができない。また、廃院・閉院が増大し、国民の医療へのアクセスを狭め、健康悪化が拡大することが懸念される。

銀行救済や温存されている公共事業に巨額の税金を投入する政府に財源がないとは言わせない。国民の不安を駆り立てるような社会保障費の削減ではなく、安心して医療・福祉を享受できる予算を政府は組み立てていくべきである。

東京保険医新聞2003年9月5日号より