乳がんマンモグラフィー検診導入に厚労省の積極的責任を求める

公開日 2003年10月05日

厚労省は、視触診による乳がん検診は有効性が低いとした同省の研究班報告を無視し、「従来の方針を改めるべき理由は見当たらない」として、報告から5年半もの間、改善を怠ってきた。

ところが本年9月、視触診による乳がん検診で誤診され余命半年と宣告された39歳女性の、文字通り命をかけた直訴に、厚労省はようやく重い腰を上げた。乳がん検診へのマンモグラフィー全面導入と視触診のみの検診廃止である。

乳がん検診の見直しが遅れたのは、厚労省だけでなく、ある町でマンモグラフィー集団検診を導入しようとしたら、地元医師会は「学校健診を請け負いませんよ」と圧力をかけ見直しに反対してきたと、医師会にも原因があると報道される。

現状は、ごく一部の自治体を除き、ほとんどが視触診のみの個別検診を医師会に委託している。筆者も内科医なので専門外でありながら、医師会の視触診講習会履修後、検診を受託してきた。乳がんでマンモグラフィー検診のみが有効性を確認されたという情報は知っていたが、自治体検診に医師会員として協力するのは当たり前、有効性が低い検診であっても受けないよりはましであろう、という安易な気持ちから、毎年検診を行ってきた。

大方のプライマリケア医は、行政の要求に添って、専門外の健(検)診業務を受託してきた。医師不足、専門医不足は構造的であり、例えば学校健診、乳幼児健診を小児科専門医に限定すれば、成り立たないし、乳がん検診も専門医が不在、不足している地域では、非専門医であっても受けざるを得ない。入院医療費削減のため在宅医療が推奨されると、24時間365日を1医師が責任を持てる訳はないのに、在宅医療の担い手になっていたりする。内科開業医へ小児が受診すれば差し当たり診療してしまう。低医療費政策、慢性的なマンパワー不足に慣らされた医師たちは、専門性や技術面の厳密なチェックをおろそかにして、様々な地域や行政の要請についつい応えてしまっている。

しかし、時代はこういう医師たちの「善意」を容認しなくなってきている。安易な乳がん検診のために、命を落としたと患者たちは訴える。私たち医師は、行政が求める安上がりの検診に、協力すべきではない。専門家集団として、検診事業が患者住民の健康増進に有効であるかを検討し、有効な方法を提言し、そのコストもきちんと要求していくべきである。

話をもどすが、乳がんマンモグラフィー検診全面導入は歓迎する。しかし、マンモグラフィー検診精度管理中央委員会が要求する装置、撮影技術、読影技術、そのいずれも住民検診を充足するレベルに程遠い。筆者も早速読影技術を習得すべく全国各地で行われている講習会をいくつか申し込んだが、すでに満員で受講できなかった。高額な装置を設置・更新するに当たっても、検診料ではペイしない。

視触診単独検診の廃止、マンモグラフィー全面的導入にあたり、装置、撮影技術、読影技術問題をどう解決していくのか、厚労省は責任をもって明確に回答すべきである。

東京保険医新聞2003年10月5日号より