【主張】「セルフメディケーションの問題点 自己診断・自己治療で手遅れになっては困る」

公開日 2017年04月05日

 セルフメディケーション税制が、2017年から5年間の時限措置としてスタートした。指定されたスイッチOTC薬について、年間購入額が10万円に達するまで、1万2千円を控除した金額が(最大8万8千円)所得控除される。

 医療費控除には、年間200万円までの医療費が、10万円を超えた分を所得控除する制度があり、これを補足する制度のようにも見えるが、新しい税制で控除されるのは指定のOTC薬への支出に限られる。1~12月の1年間のレシートを保存して確定申告する。

 この減税制度を利用するためには、法律に基づいて公的に行われる、健康診断、がん検診、特定保健指導や、インフルエンザの予防接種など、健康増進事業のいずれか1つを利用して、その領収書や結果通知書を提出する必要がある。しかしその費用は控除されない。

 この制度の目的は、軽い病気は自己診断によるOTC薬の利用を奨励し、医療機関の受診を控えさせることだろう。健康を維持する取り組みに参加するという条件は、自己管理を促す親心とも見えるが、減税制度の利用を制限するハードルにもなる。医療機関の受診は制限したいが、減税はあまりしたくないという、ソロバン勘定の迷いが透けて見える。

 迷った割には他人がOTC薬を購入したレシートを貰い集めるような不正行為への対策がとられていない危うさがある。偽レシートが出回らなければよいのだが。

 薬局では該当するOTC薬に、「税控除対象」のマークが早々と付けられた。400万円前後の所得があり、所得税20%・住民税10%の人ならば、最大2万6千400円の減税になる。
 金額の大小を云々することは難しいが、制度の恩恵にあずかれるのは納税できる人達に限られる。納税したくてもできない経済状態にある人たち、多くの母子家庭、独居高齢者、年金生活者たちは、恩恵に与れないことを忘れてほしくない。

 世界医師連盟は、社会のさまざまな格差と貧困が、健康と寿命の較差を生み出していることを指摘している。GDPを上昇させることが、経済活動の目的だと考える人がいるが、経済活動の目的はよりよい社会づくりであることを、忘れてはならないだろう。
 自己診断によるOTC薬の利用は、外来診療の混雑を緩和するなど、なんらかの効果をもたらすだろう。しかし「風邪は万病のもと」とか、「病は気から」という言葉があるように、大きな病気も小さな症状から始まることが多い。早期受診の機会を逃し、重症化してから病気を発見される人が増えるのはこまる。

 日本は割安に世界最長寿を達成し高齢化率も文句なしの1位だ。しかしその割には、GDP当たりの医療費はOECD加盟国中の20位前後を低迷している。しかも医療費総額41兆円の、3分の2にあたる25兆円は保険料と受診時自己負担による国民負担であり、国家予算からの公費は、3分の1の16兆円しか出ていない。欧州各国が医療費の全部または大部分を税収から支出していることと比較すれば、公的負担が少なすぎる。日本政府が欧州並みの公的負担をするならば、医療難民は激減するだろう。

 受診を制限する動機づけをしたり、手間のかかる還付制度を作るよりも、だれもが安心して受診できるように、国民にやさしい政治をしてほしい。

(『東京保険医新聞』2017年4月5日号掲載)

関連ワード