【主張】広域化で国保問題は解決しない

公開日 2017年05月08日

 2018年4月から、国民健康保険の運営や事業の継続に、都道府県が中心的な役割を担うことになる。区市町村は引き続き保険料を徴収するが、制度での役割が大きく変わる。

 区市町村は都道府県の割り当てに従って国保料を徴収し、全額を“国保事業費納付金”として都道府県に納付する。都道府県は保険給付に必要な費用を“交付金”として区市町村に配分する。区市町村の運営協議会とは別に、東京都は4月から「東京都国保運営協議会(構成委員21人)」を新たに立ち上げ、運用開始に向けたルールづくりを始めていく。

 区市町村は定められた納付金の全額を、東京都に納めなければならない。保険料収納率(東京都平均87.44%、23区最低82.15%)が低迷していることを考えれば、必要な財源を集めるために、区市町村が“滞納世帯への差し押さえ強化”や“保険料の引き上げ”などに奔ることが危惧されている。

 国保財政が慢性的に赤字であるために、区市町村は一般会計からの繰入金で補てんしてきた。東京の区市町村の国保加入者は現在、60~74歳の高年齢層が半数(50.8%、約1,654万人)を占め、世帯所得は「所得がない」を含めて年額100万円未満が全体の57%であり、高齢化と低所得化が深刻である。さらに保険料の滞納世帯数も、東京都内には約50万世帯(国保加入世帯の21.9%)もあり、全国で最も高い割合となっている。

 これらの根本的な問題を改善しないばかりか、東京都は保険料の収納率を上げるために、差し押さえ件数の実績などに応じて、区市町村に“特別調整交付金”を配分し、自治体間の滞納差し押さえ競争を煽っている始末だ。「交付金を多くもらうために、今後も差し押さえを強化する」と公言する区さえある。

 まさに国保の広域化の本質は、都道府県に財政的な主導権を握らせることで、国保料の取り立てを強化するとともに、保険料の引き上げか給付費の抑制かの二者選択を国民に迫り、公的医療費の圧縮を都道府県に競わせるものに他ならない。

 政府は、国保の都道府県化・広域化によって、あたかも安定的な財政運営が可能となるかのように謳っている。さらに国保加入者の自助・互助を殊更に強調し、一般財源による国保会計への補てんを、たびたび批判してきた。東京都が区市町村に要求する“国保事業費納付金”が、医療費支出に基づいて決められて、国の意向に従って、一般財源からの補てんを抑制すれば、国保料の著しい高騰が引き起こされる懸念がある。

 しかし国保加入者の実態をみれば、特にひとり親家庭や低所得者は、保険料のために食費・生活費を切り詰めても、病気のときには窓口負担が払えず、医療機関の受診もできない状況に追いやられている。生まれたばかりの赤ん坊も大人同様に課税される“子どもの均等割負担”の仕組みも、いまだに残されたままだ。2017年度からは、75歳以上の後期高齢者の保険料を軽減する特例措置も、段階的に廃止される。

 現在の“高すぎる国保料”を生み出した責任は国にある。本来、社会保障に必要な財源は、国が確保すべきものである。国保収入に占める国の財政負担割合が、20%前後に低下しているが、まずは1980年代の50%にまで戻すことが先決だ。さらに、保険料軽減のためには都道府県が、来年4月以降も一般財源からの法定外繰り入れを続けることは可能である。

 「国保料を軽減してほしい」という都民の切実な声が、7月の都議会議員選挙などで、大きく取り上げられることを期待したい。

(『東京保険医新聞』2017年4月25日号掲載)