第8回救急医療シンポジウム 医療・消防・行政の現場から実態と課題を交流

公開日 2017年08月25日

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協会病院有床診部は7月22日、第8回救急医療シンポジウム「地域包括ケアと東京の救急医療―高齢者の救急搬送の実態と課題―」を開催した。シンポジストは、①有賀徹氏(独立行政法人労働者健康安全機構理事長)、②田中裕之氏(医療法人永寿会・陵北病院院長)、③八木良次氏(都福祉保健局医療政策部救急災害医療課課長)、④大木島実氏(東京消防庁救急部救急医務課課長)の4氏。医師、看護師、消防士等53人が参加し、救急医療と地域医療について意見を交わした。

地域密着型の救急受け入れシステムが必要―有賀氏

有賀徹氏は、積極的に急性期対応している病院とそれ以外の病院で機能別に二極化され、後者の病院は地域密着型病院として、地域で重要な役目を果たすことになるとした。

また、二次医療圏内での救急搬送患者のうち95%は元の二次医療圏内に退院できるが、二次医療圏外での救急搬送患者については、その43%は元の圏域に戻れないというデータを示した。その上で患者が元の地域に戻り従前の生活を送れるようにするためには、地域密着型病院がそれらの患者を受け入れられる体制の構築が必要だと指摘。一刻を争う傷病を診るための垂直連携、医療機関や訪問看護等の多職種間連携である水平連携に加えて、病院救急車を使用して地域密着型病院に受け入れてもらうような「水平連携に準じた垂直連携」が必要であるとした。

例えば、65歳以上の高齢者で救急搬送される疾患は、肺炎、脳卒中、大腿骨骨折で6割を占めるが、これらが全て救急センターで対応しなければならないものではないため、東京消防庁の救急車ではなく、病院の救急車を使って地域の病院が受け入れる取り組みを紹介した。

「オール八王子」の救急医療を紹介―田中氏

田中裕之氏は、八王子高齢者救急医療体制広域連絡会(八高連)の活動を紹介した。高齢者の救急現場では、患者の医療情報の複雑さや状況把握の困難等で病院選定困難事案に発展しやすいことから、高齢者救急搬送に特化した八高連を2011年4月に設立。発足時より、医療機関だけでなく消防署、地域包括支援センターや施設を構成員とし、「オール八王子」で救急医療に取り組んでいる。

患者の医療情報が乏しいという問題については、「救急情報シート」を活用し迅速な救急搬送を目指していること、さらに救急情報シートにリビングウィルについて記載する欄を設け、患者本人の価値観について事前に話し合うことを促す。また、救急病院から慢性期病院へのスムーズな移行のため、慢性期病院は受け入れ可能な疾患や可能な医療処置を予めリスト化している。八高連発足後、八王子市内の64歳以上の救急活動時間が、現地到着から現地出発の時間が1分20秒、病院到着から引継ぎまで4分13秒、それぞれ短くなったことを明らかにした。

八高連では、関係者の「顔の見える連携」を実現することで、在宅から急性期病院への円滑な搬送や、急性期病院と慢性期病院との連携強化等が図られているという。

救急車の適正利用推進を求める―大木島氏

大木島実氏は、年々増加する救急出場件数と搬送人員について、出場してもそのうち10%程度は搬送せずに帰ってくることをデータで示した。

また、65歳以上の救急搬送が全体の約半分を占め、さらに75歳以上が35.6%を占めるなど、高齢者搬送の増加を指摘した。救急搬送人員の程度別の内訳では、入院が必要な状態である中等症の割合が、全体で見ると38.2%なのに対し、65歳以上は48.3%と割合が増加することも示した。頻回に救急車を要請する者の対応については、その者が何らかの事情を抱えている可能性が高いため、福祉事務所や保健所、地域包括支援センター等と連携して援助活動を行うことを意識した対応を心がけるとした。救急車の適正利用の推進については、救急相談センターで緊急性の有無や受診の有無に関するアドバイスを受けられる#7119の周知や、都民の自己判断ツールとして東京版救急受診ガイド(冊子版、WEB版・東京消防庁HPに移動します)の作成をしていることも強調し、今後も周知に努めていきたいと述べた。

東京ルールの実施で「域内受け入れ率」「平均応需率」が改善―八木氏

八木良次氏は、東京ルール導入後の成果と今後の救急医療連携の必要性について語った。東京ルール事案の域内受け入れ率について、ルール導入前の49.3%(2008年)からルール開始後には86.2%(2016年)に上昇。同じく、平均応需率も67.9%(2011年)から75.6%(2016年)と上昇するなど、改善が見られていると述べた。高齢者の救急搬送件数が増えるなか、東京都では、高齢者の搬送元の約84%が自宅・外出先からの搬送であり、これについては「地域包括ケアシステムにおける迅速・適切な救急医療に関する検討委員会」で検討すること、また、搬送元が高齢者施設(約7%)・転院搬送(約8%)である事例については別途検討会を立ち上げ検討することを述べ、地域包括ケアシステムにおける救急搬送のより一層の改善を目指していくと述べた。

協会病院有床診部の細田悟部長は、救急医療に関しては3つのポイントがあるとし、①看取りにおいて医師が主体的に役割を担うことの重要性、②特養の配置医の報酬がほとんど評価されていないことの問題、③市民を巻き込んだ取り組みを行う必要性を挙げ、議論の場として今後も本シンポジウムのような場を設けていきたいと締めくくった。

(『東京保険医新聞』2017年8月25日号掲載)