保険者努力支援制度 医療費削って国から報奨金

公開日 2017年09月19日

都道府県・区市町村国保に最大700億円

2015年5月に成立した「医療保険制度改革関連法」により、医療費適正化の取り組みに成果を上げた保険者を評価し、実績に応じた財政措置(インセンティブ)を行う「保険者努力支援制度」が創設された。国は保険者努力支援制度により2016年度は約150億円、2017年度は約250億円を市町村に配分し、2018年度からは都道府県に約200億円、市町村に約300~500億円を配分する見通しだが、本来は国保運営を十分に支えるだけの財源を国庫負担で捻出すべきであろう。

国民健康保険(国保)制度改革の一環として、国が定めた評価指標(下表)に応じて、すでに2016~2017年度にかけて区市町村のみを対象に“前倒し”制度が試行されている。2018年度からは都道府県も本格的な運用を開始し、さらに実績に対する加点数も増やす。“国保の広域化・都道府県化”とあわせて、より成績の良好な自治体に報奨金として国庫から税金を配分する仕組みを構築しようとしている。

gra1_170915_01保険者努力制度(区市町村)の主な指標および該当状況

初年度の集計結果―全国1位は新潟県下

 2016年度の対象は市町村のみだが、275点満点のところ、加点平均が最も高かったのは新潟(184.87点)、熊本(176.95点)、佐賀(175.65点)とつづく。反対に加点平均が低かったのは秋田(89.88点)、次いで東京(92.71点)、三重(96.59点)だ。

“競争”へと駆り立てる国の評価指標

特筆すべきは、「上位数%」の指標だ。特定健診やがん検診等の受診率のほか、後発医薬品の使用割合、国保保険料の収納率などで加点配分が大きい。全ての市町村が獲得に向けて邁進したとしても、実際に加点を受ける自治体は上位3割や5割に限られ、また国から配分される全体の総額が決まっているため、保険者同士が財源を“取り合う”仕組みとも言える。いたずらに“競争”を煽り、自治体を駆り立てる懸念が指摘される所以である。

自治体が国保料の収納率向上に走れば、滞納世帯の生活実態を考慮せずに市町村が強引な“差し押さえ”や“徴収強化”に奔る恐れもある。反対に“加点”が得られなかった自治体は、国保運営に必要な財源を保険料の引き上げや一般財源からの法定外繰入で捻出しなければならず、住民も自治体も負担にいっそう苦しむことになるだろう。

“受診なし”世帯に一万円

「個人インセンティブ」への“加点”も20点と高い。すでに岡山県総社市では、国保の運営の健全化に貢献し、積極的に健康の推進に努めた世帯に、健康推進奨励金を支給している。これは全員が特定健康診査を受けた国保加入世帯で、国保料を完納し、かつ、一年間保険診療を受けなかった世帯に一万円の「キャッシュバック」を行うというものだが、報奨金目当てに受診を我慢する危険性が指摘されている。保険者努力支援制度は都道府県・市町村(保険者)だけでなく国保加入者まで医療費適正化に向けた“努力”に駆り出し、総社市のような「危険な受診抑制」の動きを推進する制度でもある。

このような「医療費抑制」を競わせる制度に国民の税金を投入するのは本末転倒である。年金生活者など無職者が44%を占め、そもそも保険料による財源確保が構造的に困難な国保財政に対しては、大幅な国庫支出を行うのが国の責務であろう。

(『東京保険医新聞』2017年9月15日号掲載f)