【視点】総合診療専門プログラムの審査問題を考える

公開日 2017年11月27日

東京保健生活協同組合 副理事長/大泉生協病院 院長
齋藤 文洋(さいとう・ふみひろ)

不可思議な経緯・恣意的なすすめ方に疑問

くの先生方は今年9月25日に新専門医制度に関わるプログラムの一次審査の結果が発表され、その後都道府県協議会により評価され、二次審査結果が発表されたことをご存知と思います。

このプログラム作成は機構の専門医制度整備指針に基づき、全専門科19科のうち18科は各学会が、総合診療専門医の研修プログラムはこれを専門とする学会はない(今までの経過から、総合診療専門医については、他にも同様な学会や組織はあるものの、プライマリ・ケア連合学会の主催する家庭医療専門医がその基礎の主要なところであることは周知の事実と考えられますが)ということで、日本専門医機構本体が担当して各専門領域 のプログラム整備指針が作成されました。これに基づき各医療機関は具体的プログラムを作成、申請し、一次審査が行われました。

以後は色々と不可思議な経過が目立った総合診療専門医プログラム審査(以下、総診プログラム)について意見を述べようと思います。

総診プログラム整備指針は作成が遅れに遅れ、2017年7月7日に発表されました。そして各種の必要な書類書式が確定したのが8月9日。プログラム申請期間は8月9日から8月21日まで(最終的には延期され8月25日)でした。新専門医制度の研修プログラムの特徴は他施設協力型ということです。それ故に3年以上にわたる研修のなかで多くの施設に協力依頼をして、複雑な書類を各施設に書いてもらいプログラムを作成しなければいけません。当院で作成したプログラムでは7施設ほどにお願いしました。これを書式発表から2週間あまりで行うことがどれほど大変であるか想像がつくでしょうか。しかしそれだけではありませんでした。

へき地等の研修一年以上 「望ましい」から「必須」へ

8月10日、専門医機構から「お願い」という文書が出されます。そこには「総合診療専門研修プログラムについては、地域医療に配慮し、さらに1年以上の僻地等の専門研修が含まれるものを優先すること」という文章が出されました。整備基準では「へき地・離島、被災地、医療資源の乏しい地域での1年以上の研修が望ましい」との表現で必須では有りませんでした。しかしこの「お願い」により事実上必須と判断され、多くのプログラムが作り直しを強いられました。

元々、必須領域別研修(内科・小児科・救急の計18カ月以上)が必要で、さらに僻地等研修を1年。専門研修プログラムは概ね3年間というものが多いのですが、この2つだけで30カ月(2年半)となってしまいます。地域包括ケアを担う病院には中小病院も多く、小児科・救急の研修は他施設にお願いします。また内科研修も19基本領域の一つである内科専門医研修の基準を満たす施設における研修が必須ですので、これも他施設にお願いする可能性が高く、そして当然ながら僻地等研修が自院でできるところは少なく、3年の標準プログラム(これは機構によって例が示されている)では、プログラムを主催するいわゆる基幹施設では、ほとんど研修ができなくなってしまいます。

それでも、この時点では内科研修は総合診療専門研修と期間がオーバーラップしても良いと言われていましたので、必須の内科12カ月のうち半年あるいは全部をオーバーラップさせることで何とかプログラムを成立させることが試みられました。

申請締め切り後に 「内科研修との重複は不可」

かし、8月25日のプログラムの申請締め切りを過ぎた8月28日、再び確認とお願いとして「『内科研修』は『単独で12カ月』の研修が必要です。ご確認いただき、修正が必要の場合は、8月31日(木)までに再提出をする様に」との文書が出されます。つまりオーバーラップの研修は許可しないというのです。締め切りを過ぎて修正期間は3日間。こんなことがあるでしょうか。それでもほとんどのプログラムはなんとか修正し、つじつまが合う様にして再提出しました。

そして一次審査発表の9月25日。一次審査発表と同時に新たな「理事会基準」が発表され、なんとへき地・過疎地域、離島、被災地、医療資源の乏しい地域での研修12カ月が必須条件に昇格。かつ、へき地・過疎地域、離島、被災地、医療資源の乏しい地域というものの条件がこのとき明確にされたのです。審査発表と同時に条件を変更されたのではプログラムの修正は不可能です。

さらに、m3.comの記事によれば、専門医機構の副理事長である松原謙二先生が自ら「地域において重要な役割を果たしている大学病院、基幹病院については、できる限り連絡を取り、必要に応じて修正をしてもらう」という対応をしたと述べています。

実際、学会のメーリングリストでは、突然、松原氏からプログラムを修正する様にプログラム責任者に連絡があったとの情報が飛び交いました。この時には、一定の基準に見合わないプログラムには全て連絡があるものと思われましたが、一部だけに連絡があったのです。その理由が「地域において重要な役割を果たしている」というのですが、その判断はどうも松原氏個人によるものの様です。

二次審査通過の大半 大学病院や3次医療機関

もそもプログラム整備指針では、

プログラム整備基準(総合診療専門研修プログラム整備基準p10)
5 専門研修施設とプログラムの認定基準
①専門研修期間施設の認定専門研修期間施設は、以下の基準を満たす施設である。

1. 次に示す総合診療専門研修Ⅰ、あるいは総合診療専門研修Ⅱの施設基準を満たしていること。ただし大学病院は研修全体の統括組織としての役割を果たしている場合はその限りでは無い。
総合診療専門研修Ⅰ:診療所または地域の中小病院…(中略)…地域包括ケアの研修が可能な施設。・・・(中略)・・・。
総合診療専門研修Ⅱ:総合診療部門(総合診療科・総合内科等)を有する病院(一部略)で、一般病床を有し救急医療を提供し、臓器別でない病棟診療(高齢入院患者や心理・社会・倫理的問題を含む複数の健康問題を抱える患者の包括ケア、癌・非癌患者の緩和ケア等)と臓器別でない外来診療(救急も含む初診を数多く経験し、複数の健康問題をもつ患者への包括的ケアを経験等)の研修が可能な施設。

とあり、地域包括ケアを担う中小病院や診療所が研修の場となるはずの専門領域で、大学は特別な場合にだけ認める、と言うのが本来でした。しかし、例えば東京では2次審査まで通った29プログラムのうち11が大学病院、7つは都立病院や高度急性期を担う3次医療機関で、大半が厚生労働省の示している地域包括ケアを担う地域の病院では無い施設でした。因みに筆者の所属施設がある練馬区では73万の人口を擁するにもかかわらず、総診プログラム、ゼロです。筆者の施設が申請したプログラムは一次審査で見事に落とされてしまったからです。

結果、申請のあった総診431プログラムのうち360プログラムが一次審査を通過、その後再び松原氏からの直接連絡や都道府県からの要請で、2プログラムが辞退、9プログラムが追加されました。

被災地研修 「地域は石巻だけ」?

後談がまだあります。被災地研修を12カ所で作成していたプログラムが落とされたため、何故かを専門医機構に問い合わせたところ、その結果がすごいのです。東日本大震災の被災地は津波の被害を直接受けた石巻だけである、との回答だったそうです。

一次審査を落ちたプログラムには、今まで家庭医療専門医を輩出してきた、この領域では老舗の施設が多くある一方で、大学病院などで今までこの領域に全く見向きもしなかった施設が認定されているのも不可思議なところです。

新専門医制度、特に総診プログラムについては、機構の枠を超えて特定の人物が相当恣意的に物事を進めている様に見えるのは私だけでしょうか?すでに多くの団体や医療機関、個人から問題点の指摘がされています。ここに記した問題は一部にすぎません。今回は、紙面の都合上、残念ながらその他の問題には触れることができませんが、日本の医療の今後、特に地域医療の有様を大きく変える可能性のある新専門医制度について、多くの先生方にもう一度真剣に考えていただきたいと切に願います。

(『東京保険医新聞』2017年11月15日号掲載)