保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【銀杏並木】ビリケンさま

公開日 2017年12月05日

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幼い頃、母が買い物に行く時はよく母方祖母の家に預けられていた。礼儀作法は厳しかったが“行くのが楽しみな親戚ンち”で、祖母や叔母、伯父伯母へ挨拶した後、最後は祖父のいる別の部屋へ。廊下に座って障子の外から声をかけ、「おはいり」と言われたら障子を開けて中へ入り挨拶。手招きされ近くに寄るとチョコやキャラメルなどを手渡される。そんな一連の儀式のような挨拶が決まりだった。

ただこれも祖父が留守の時は不要で、部屋への出入りも自由。そんな祖父不在のある日、飾り棚に妙な形の人形を見つけた。高さ5<CODE NUMTYPE=SG NUM=5516>ほど、白い陶器でピンク、黄緑、黄の腰蓑か短パンか…の3体。特徴的なのは頭頂部がとんがっていること。横にいた祖母が、幸せを運んでくるビリケンという外国の神様だと教えてくれた(今の大阪のとは違う、閉眼まつ毛のカワイイ神様)。

初めて聞く名と独特の顔に惹かれ欲しくなったが、当時は内気で無口で欲しいと言えない子。欲しい。でも言えない。何度もその部屋に行っては眺め、手に取り、また居間に戻り…の繰り返し。

結局「ちょうだい」が言えないまま母が迎えに来、玄関に向かった私に「これ」と祖母が何かを握らせてくれた。冷たい、つるんとした…え?これ、ビリケン!?

思わず祖母の顔を見上げ、でも嬉しさと驚きでお礼も何も言えない私に祖母は小声で「いいのよ。欲しかったんでしょ。ママには内緒ね」。

帰り道、ポケットの中のビリケンをずっと握りしめて歩いた。冷たいツルツルのビリケンは体温でぬくもり、その感触は祖母の優しさと共に今も忘れられない思い出だ。(音子海流)

(『東京保険医新聞』2017年11月25日号掲載)

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