人事労務セミナーを開催 今までの常識を捨てる/深刻な人手不足、戦略的な採用活動を

公開日 2017年12月21日

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協会経営税務部は11月16日、人事労務セミナー「失敗しない新入職員採用のコツ」を開催した。講師は、特定社会保険労務士の加藤深雪氏(第一経理)。会員をはじめ院内人事担当者など63人が参加した。現在介護・看護の業種では、7割が人手不足の状況であると言われている。加藤氏は、「この困難を乗り越えるには、今までの採用に関する常識を改め、戦略的に採用活動を行うことが必要」として、採用・定着・育成という今後のクリニックの経営課題について解説した。

採用募集はピンポイントで

人手が不足している企業に対するアンケート調査では、「募集をしても応募がなかった」が63.4%を占めており、人が動く時期(4月、9月、2月)にピンポイントで、職を求める人の手元に有効に求人の情報が届くことが重要だ。さらに募集広告内容としては、その他大勢でなく『あなたを求めている!』と分かる記述にすることが肝要である(《例》参照)。

《例》

NG例:
 看護師 未経験者可 経験者尚可 応相談

OK例:
 看護師資格保持者 ブランクがあってもOKです。
 先輩が丁寧に教えます。
 子どもの来院が多いので、子どもが好きな方歓迎します。
 子育て中の方、勤務時間は午前勤務・午後勤務だけでなく、下記からも選べます。
    ・ 9  時30分~15時   休憩60分
    ・10時~15時半    休憩60分
 スタッフは長く勤めている人が多く、職場環境が良好なのが特徴です―など。

その他には、求人者数の多い子育て世代が働きやすい柔軟な労働時間を設定することも大切である。募集条件の例として、①非常勤で10~15時などの時間設定、②短時間・正職員で待遇を均衡、③有給休暇や子の看護休暇を時間単位で取得できるようにする、等を設けるのもよい。

面接は段取りが8割

面接では「採用前準備は段取りが8割」と事前の準備を強調する加藤氏。自院の文化、強みをアピールできるよう、院長のこだわりをはじめ、経営理念や方針などをまとめておく。社会常識が備わっているかを判断するため、筆記試験。記述式選考も行うとよい。
また、地域の給与相場を調査しておくことも大切である。書類選考では、譲れない条件(スキル、転職回数、勤続年数)を決めてできる限り絞り込み、勤務開始可能日も忘れずに確認しておく。

さらに、実際の面接では自院PRとして、①院長はどんな人か、②院長は今後クリニックをどうしていきたいか、③経営理念、④このクリニックで働くとどうなれるか、⑤他のクリニックとどう違うのか、⑥どんなスタッフが働いているか――などを語る。
面接では「はい」「いいえ」で答える質問は避け、相手の性格や考え方が出やすいオープンクエスチョンが有効である。リラックスしてもらうよう、女性スタッフに入ってもらうのもよい。

定着のための仕組みづくり

加藤氏は職場の不満の原因3点を紹介した。一つ目は職場環境として、ロッカールームで足を伸ばせない。トイレが男女一緒。制服がいまいち等。二つ目は賃金、賞与、労働時間等の基準が不明確なこと。具体的には、昇給や賞与、慶弔金などの支給基準が曖昧。診療時間を過ぎても終わらず帰れないなど。三つ目は、経営方針・管理が明確でなく、人間関係が悪いこと。誰の言うことを聞けばよいか分からない。労使間・労労間のコミュニケーション不足があげられる。

定着のための仕組みづくりとして教育研修制度(コーチング、接遇、クレーム対応、実務研修など)、管理職登用や目標管理による人事評価・院長面接などをあげた。コミュニケーションを取るためにミーティング、忘年会などのイベント、院長との面談を行うことも大切である。

会話の工夫として、質問形式で気付かせること。また、相手の意見をよく聞くことなども必要だ。

また、時には厳しく指導することも求められる。叱るときは軸を決めるとともに、フォローも忘れないことが重要だ。

質問に答えて……

小さな職場で有給をどのように取るか」との質問には、「有給休暇の5日を超える部分については、学会の前後や、夏休み、正月休みなどに一斉に有給を取る『計画的有給付与』も一つのやり方だ」と答えた。

こんな採用NGケースも

次は、加藤氏があげた採用NGケースである。
①経営コンサルタントから、「医療事務は若くて未経験でも務まる。その方が人件費が安く済む」と指導があり、その通りに採用したところ、ベテラン看護師が教える手間ばかり増え、残業も増え、ストレスに。職場の雰囲気も最悪になった。

②社会保険への加入を避けるため、常勤を置かず、パート職員のみ8人を雇用。しかし、何度か3人程度がまとまって辞めてしまうことがあり、常に人手不足。その度に募集広告を出し、面接・教育に時間がとられることに。

以上、人事労務セミナーでの講演の概要を紹介した。職員採用の際にぜひ参考にしていただきたい。


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(『東京保険医新聞』2017年12月5・15日号掲載)