保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

胃がん検診で指針・国/内視鏡検査に「二重読影」

公開日 2017年12月27日

2016年2月に改訂された国の「がん検診実施のための指針」により、区市町村が実施する「胃がん検診」について、「胃部エックス(X-P)線検査」に加えて新たに「胃内視鏡検査」による実施が盛り込まれた。

国の「がん検診のあり方に関する検討会」での論議をふまえ、新たな指針は対象者を「原則として50歳以上」、検診間隔は「胃部X-P検査は1年に1度、胃内視鏡検査は2年に1度」とした(表1)。

表1 国のがん検診に関する指針の主な変更点(下線部分・2016年4月以降)
  検査項目 対象者 受診間隔
胃がん検診 問診に加え、胃部エックス線検査または胃内視鏡検査のいずれか 50歳以上
※当分の間、胃部エックス線については40歳代に対し実施可
2年に1回
※当分の間、胃部エックス線検査については年1回実施可
子宮頸がん
検診
問診、視診、子宮頸部の細胞診および内診 20歳以上 2年に1回
肺がん検診 質問(問診)、胸部エックス線検査および喀痰細胞診 40歳以上 年1回
乳がん検診

問診および乳房エックス線検査(マンモグラフィ)

※ 視診、触診は推奨しない

40歳以上 2年に1回
大腸がん検診 問診および便潜血検査 40歳以上 年1回
*厚労省「がん予防重点健康教育およびがん検診実施のための指針」(2016年2月4日改訂)から

さらに、同指針では、内視鏡検査における胃がん検診を導入する自治体に対して「日本消化器がん検診学会」のマニュアルを参考にするとしたが、同マニュアルでは、「胃内視鏡検診運営委員会(仮称)」を設置することが“望ましい”とし、さらに管下にダブルチェック(二重読影)のための読影委員会を設置することを“必須”としたため、内視鏡によるがん検診を導入する自治体にとっては、大きなハードルとなっている。

都内では千代田区や多摩市など10自治体で、すでに内視鏡検査を導入しているが(表2)、杉並区のように、二重読影の体制が整っていない区市町村の医療機関からは、戸惑いの声も協会に寄せられている。

表2 内視鏡による胃がん検診の導入状況(協会調べ)
  対象者 自己負担 実施機関数 読影委員会の設置 1人医師医療機関
の手挙げ
千代田区 40歳以上 800円 (※1) 31 検討中 (※2)
港区 50歳以上
(偶数年齢)
無料 18 ○(地区医師会)
新宿区 50歳以上
(原則2年ごと)
2,000円 (※3) 36 ○(地区医師会)
文京区 50歳以上
(原則 偶数年齢)
無料 21 ○(地区医師会)
目黒区 50歳以上
(2年ごと)
無料 32 ○(地区医師会)
世田谷区 50歳以上
(2年ごと) 
1,500円 (※4) 78 ○(地区医師会)
渋谷区 50歳以上
(偶数年齢)
無料 25 ○(地区医師会)
杉並区 50歳以上
(2年ごと)
1,000円 (※5) 16 ●(各医療機関内) ×
荒川区 50歳以上
(偶数年齢)
1,000円 (※1) 25 ○(地区医師会)
多摩市 50歳以上 2,500円 (※1) 10 ○(地区医師会)
※1:生活保護受給者は無料(千代田区、荒川区、多摩市)
※2:国に先行して、以前から区独自に内視鏡による胃がん検診を実施しており、当面は引き続き「任意型検診」として実施(千代田区)
※3:住民税非課税者、生活保護受給者および中国残留邦人等の受給者は無料(新宿区)
※4:生活保護受給者および中国残留邦人等の受給者は無料。また、身体障害者手帳の認定者は一部費用を償還払いで助成(世田谷区)
※5:生活保護および中国残留邦人等の受給者は自己負担免除(杉並区)

課題は二重読影の体制整備

従来の指針では、胃がん検診の対象者は「40歳以上」、頻度は「年1回」とし、検診項目は「問診および胃部X‐P検査」とされていた。一方で、すでに千代田区のように独自に「胃内視鏡検査による胃がん検診」等を実施してきた自治体は全国で363(全区市町村の20.9%)となっている。

今年度から導入した港区、新宿区、文京区等ではいずれも「地区医師会」内に読影委員会を設置することで、国の指針に沿う二重読影の体制を整備しつつ、自院に1人しか医師がいない医療機関であっても指定(契約、委託)医療機関に手上げができている。本年10月から導入した世田谷区でも同様である。

しかし、杉並区では、地区医師会に読影委員会を立ち上げていないこともあり、当面のところ、自院内で医師2人によるダブルチェックの体制(読影委員会など)を有しないと、内視鏡検査による胃がん検診の実施医療機関に手上げできない状況となっている。

十分な経験を有し、患者の日常的な診療・検診を担ってきた医療機関であっても、読影する医師が1人の場合には、やむを得ず他院でのがん検診を紹介せざるを得えない。患者は、かかりつけの医療機関で検査が受けられないことになる。また、実施医療機関でも、引き受ける体制には限度があり、一部の医療機関に負担が集中し、予約から検査まで時間がかかってしまう等の懸念がある。

受診しやすい環境整備と国庫財源の拡充を

国の国民生活基礎調査では、2016年度の胃がん検診の受診率は全国平均40.9%(40~69歳)、東京都は40.6%(同)となっており、40歳以上の全年齢(上限なし)では全国平均38.4%、東京都37.2%とさらに落ち込む。国は、胃がん検診の受診率目標(40~69歳)を50%に設定しているが、いまだ道半ばの状況だ。

検診精度の充実を掲げた今回の改訂によって、かえって住民から検診を受ける機会を奪ってしまっては本末転倒である。

また自治体によっては、もともと地域に医療資源が十分でない自治体も少なくない。三多摩地域の自治体からは、住民から窓口に「内視鏡検査による胃がん検診」導入への期待が多く寄せられる一方で、市内に内視鏡検査を実施する医療施設が少ないため、導入そのものが困難との声も聞かれる。

さらに、がん検診実施に伴う財源も問題になる。厚労省の調査では、全国の自治体における平均的な検診単価は、胃部X-P検査で7,103円、胃内視鏡検査で1万4,005円となっている(2015年度調査分)。同じく平均的な自己負担単価は1,505円と3,116円で、いずれも内視鏡検査の倍近い費用・負担が必要となる。

1997年までは旧・老人保健法にもとづく国の事業(国、都道府県、市町村が1/3ずつ費用負担)だったものが、1998年以降は実施主体を区市町村とし、財源も地方交付税(普通交付税)による一般財源でまかなうこととした。

地方交付税(普通交付税)は、自治体ごとの財政均衡の調整を目的に国から交付されるため、国が定めた基準を超える財政状況の自治体は“不交付団体”として同交付税は交付されない。2017年度の都内“不交付団体”は23区のほか9市1町となっており、これらの自治体はがん検診の実施に要する費用を他の財源から捻出しなければならない。

そもそも、国の指針が求める内視鏡画像の二重読影が本当に必要なのか否かの議論もあるが、少なくとも全ての自治体で必要な検診ができるように、国の責任で財源確保を行うよう求めていかなければならない。

(『東京保険医新聞』2017年12月25日号掲載)