保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

シンポジウム「医療行為と刑事責任」を開催ー「制裁」のあり方、処罰対象からの除外など論議

公開日 2017年12月28日

171123_シンポジウム「医療行為と刑事罰」①

協会勤務医委員会は11月23日、日本刑法学会理事長の佐伯仁志氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授・写真右)、常務理事・理事長代行の井田良氏(中央大学大学院法務研究科教授・写真中央)、医師でもある弁護士の田邉昇氏(写真左)を招き、「医療行為と刑事責任に関するシンポジウム」を協会セミナールームで開催した。参加者は77人。シンポジウムは午後1時から3時間にわたり開催された。

講演のなかで井田氏は、「医療者のなかには、医療における過失については刑事責任の追及を制限すべきとの意見が根強くあるが、医療に限った議論は、医師は特権階級などと受け取られる懸念がある」とし、「過失問題全体として議論しつつ、そのなかで医療行為における特殊性に応じて、何が過失に当たるか、現場の医師が納得できる判断基準に変えていくことが必要」だと指摘した。

また、佐伯氏は「医療過誤に対する制裁の要求はなくならない」とし、処罰を限定するには、刑罰以外の制裁を活用する必要があるとの持論を述べ、「被害者の告訴を防ぐためには、被害者との信頼関係を維持して、その納得を得ることが重要であり、誠実な原因解明と被害者への説明が必要」とした。

171123_シンポジウム「医療行為と刑事罰」②

パネルディスカッションでは、医療行為に対する「制裁」のあり方、刑罰を科す影響、医療行為を処罰の対象から外す可能性など、多岐にわたる論議が展開された。

参加者からは「被害者の応報感情を満足させるためには、何らかの制裁が必要というが、制裁を優先させると、再発防止につながらない。医療全体の損失の方が大きい」などの意見が相次いで出された。

また、参加していた日本医療法人協会医療安全部長の小田原良治氏は、「今は2015年10月から施行された医療事故調査制度の正しい理解のもと、制度を定着させることが先決である」として「今は関連法規を改正すべきではない」と主張した。

なお、佐伯、井田両氏は厚生労働省が立ち上げた「医療行為と刑事責任に関する研究会」の構成員になっている。司会を担当した勤務医委員会の佐藤一樹委員が「行政処分の強化などを検討しているのか」との質問に対し、井田氏は、「行政処分の強化などを検討しているわけではなく、まずは整理して勉強しようということになっている」とし、「制度にはメリットとデメリットがあり、その総体として何がいいかを判断していくのが政策」と説明。「個人的には、過失犯を論理的に限定するのは困難であり、非刑罰化の公平な線が引けるようになればいいのではないか、と考えている」と述べた。

シンポジウムの最後に、井田氏は「医師が不安に思わず、思い切り仕事ができる環境を作りたいという思いはある。しかし、譲れない一線もあり、医師だけでなく、総体として、すべてに普遍化、一般化できる理論で、医師の仕事の環境を整えていきたい」と述べた。

また、佐伯氏は、「刑罰以外の制裁を使うことにより、刑罰の使用を限定すべきであり、その一環として医療過誤の問題を考えていたが、もう少し積極的に医療事故を防ぐためにどんな制度がいいのか―という前向きな考えが必要ではないか、と考えるようになった」と締めくくった。

〈当日のプログラム〉――――――――――――――――――――――――

【報告】
「協会の医療事故、医師法21条の考え方」
 東京保険医協会 勤務医委員会 佐藤 一樹 氏

【講演】
「医療行為と刑事事件 まずは基本から」
 中村・平井・田邉法律事務所  弁護士(医師)田邉 昇 氏
「医療事故と刑事過失論―法律家の視点から」
 中央大学大学院法務研究科教授
 慶應義塾大学名誉教授  井田 良 氏
「医療事故と刑事制裁論―法律家の視点から」
 東京大学大学院法学政治学研究科教授   佐伯 仁志 氏

【パネルディスカッション】

(『東京保険医新聞』2017年12月25日号掲載)