【主張】見切り発車する国保の広域化 公費投入の削減・解消が狙い

公開日 2018年01月31日

国保は区市町村単位で運営されてきたが、加入者の約8割が前期高齢・非正規雇用・無職・有病・低所得などに該当するようになった。被保険者一人当たりの所得が減少しているのに、医療費が増加するという、逆転現象のために運営困難に陥っている。

行政の側からは負担の平等化、財政の安定化、事務の効率化などを目的に、2018年度からは国保の運営責任を都道府県に移すこと(都道府県化)が提起された。責任者を換えて済む問題ではないのだが、という意見もある。

東京都が国保の運営責任者(保険者)となれば、区市町村からの補助金(法定外繰入金)がなくなり、東京都の国保料が約30%値上がりする恐れがある。2017年の9月にようやく開催された国保運営協議会の資料によれば、区市町村からの法定外繰入金は2016年度、全国で3,853億円であったが、東京都分が1,169億円で、総額の3割を占めていた。続いて神奈川、埼玉、大阪、愛知の合計が1,252億円、残りの道府県で1,432億円であり、国保の経営難は地方都市よりもむしろ、大都市圏において重要な問題であった。東京都民自身が、発言してゆかなければならない。

政府は法定外繰入金を解消させる方針であるが、必要金額を補てんする方針は示されず、「東京都と区市町村が、協力して国保の運営にあたる」という、玉虫色の方針が示された。保険料が上昇すれば、東京都からの調整交付金による激変緩和措置が、6年間だけ行われるという。しかし、区市町村間には大きな経済格差と医療格差があり、都内の国保料の一本化は単純ではない。

国保料の収納率は、被保険者規模別の全国平均収納率を勘案するというが、収納率が高い自治体を表彰して、報奨金を与える制度が提起された。報奨金を得られない自治体がますます貧しくなれば、底辺に向かう制度になりかねず、保険料の過酷な取り立てや、保険証のとり上げにつながることが懸念される。

社会保険料は所得に応じて(応能割が)賦課されるのに対して、国保料は家族数による賦課(応益割。一人約4.5万円)が加わるので、負担感が大きい。このため納付率が9割以下に低迷し、未納分を補てんするために、保険料がさらに高騰するという悪循環に陥っている。低所得者にとって、所得の15~20%にも及ぶ国保料は過酷である。国保の都道府県化は、これらの基本的な問題を解決しない。

東京都は、「国保運営方針の概要」として「国保制度は相互扶助の精神に則った社会保障制度である」との認識を明記した。これに対して委員から、「社会保障は行政の義務を履行する事業であり、相互扶助の制度とは異なる」との指摘があり、「文言を検討する」ことになっていた。しかし11月21日に開かれた第2回国保運営協議会の資料では、「国保制度は、被保険者間の相互扶助を基本とした社会保険制度である」と後退した見解で、国民健康保険法第1条の「社会保障制度」であることを完全に無視していた。

国保の強引な「広域化」を進めれば、「支払えない国保料」の問題によって、過酷なとり立てと保険証のとり上げにつながり、国民皆保険体制を崩す惧れがある。2018年度に国保の保険者が東京都になっても、未確定の部分が多くのこされた。国保料の賦課・徴収は今まで通り、区市町村によって行われるので、これまで通りの一般会計繰入金によって、保険料の軽減や独自の施策をおこなうことは可能である。厚労省も分賦金(国保料)の収納率が低い区市町村には、「一般会計繰入金」で補てんしてもらう、と明言している。

国民皆保険体制の柱である国保制度を存続させるためには、減らされ続けてきた国庫負担の回復が欠かせない。「国庫負担の引き上げ」を要求している全国知事会・全国市長会を支持してゆく必要がある。

(『東京保険医新聞』2018年1月25日号掲載)