『医科歯科医療連携研究会2017』抗菌薬といかに向き合うか

公開日 2018年03月30日

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医科歯科関連の口腔内細菌と全身疾患

協会は2月4日、東京歯科保険医協会、千葉県保険医協会と共催で「医科歯科医連携研究会2017」を開催した。「医科歯科関連の口腔内細菌と全身疾患」をテーマに、三辺 正人氏と岩田 健太郎氏が講演した(◆講演テーマ)。当日は、会員医師・歯科医師、研修医、コメディカルなど165人が参加し、後半のパネルディスカッションでは講師と参加者との間で活発に意見を交換した。

◆講演テーマ
►「知っておきたい!歯周病と全身疾患のただならぬ関係」
 三辺 正人 氏(歯科医師/神奈川歯科大学 口腔科学講座 歯周病学分野 教授)
►「抗菌薬適正使用とは何か」
 岩田 健太郎 氏(医師/神戸大学大学院 医学研究科 感染治療学 教授)
►パネルディスカッション・質疑応答
 パネリスト:三辺 正人 氏、岩田 健太郎 氏
 座長:佐藤 一樹(葛飾区、いつき会ハートクリニック/協会理事)

患者数330万人成人の85%に歯周疾患!?

厚生労働省が3年に1度実施している「患者調査」の最新版では、歯肉炎および歯周疾患の患者数は約331万5,000人とされ、前回調査から65万人増加している。成人の85%が歯周疾患に罹患しているとも言われ、さらに歯周病は循環器疾患、糖尿病、がん、慢性閉塞性肺疾患などのリスクファクターとしても知られている。

例えば糖尿病では、“糖尿病になると歯周病が悪化する”“歯周状態が悪化すると血糖値コントロールがうまくいかない”という相互関係にあると言われている。三辺氏は歯周病の重症化が及ぼす全身疾患へのさまざまな影響について、理解を呼びかけた。

抗菌薬処方が患者の健康を損なう可能性も

岩田氏は、薬剤耐性(AMR)菌の問題だけでなく、抗菌薬投与によって、例えば腸内細菌を“無差別”に殺してしまい、かえって患者の健康状態に悪影響を及ぼす( アトピー性皮膚炎、気管支喘息 など)可能性を紹介。抗菌薬は特定の菌だけに作用する“器用さ”はない。患者の健康を損なう可能性を常にはらんでいる、と警告する。

かつて20世紀初頭に世界初の抗菌薬として開発されたサルバルサンも然り、最近では2015年12月にアメリカの救急医学会が発表した「マクロライド系の抗菌薬投与は心臓突然死・心室頻拍のリクスを増大する」との指摘もその一つだ。

不必要な処方は、医師が“念のため”とリスクを回避したつもりが、単に患者の心臓突然死・心室頻拍のリクスを増やしているだけ、という可能性もある。重要なことは、抗菌薬の処方によって期待する治療効果と、処方による弊害(副作用)の両面を可能な限り“定量化”しながら選択していくことだ、と強調した。

歯科領域における“術後”の抗菌薬投与は不要!?

歯科の“観血的”な外科処置に際し、「感染性心内膜炎」の予防に抗菌薬を投与する場合がある。処置を契機に口腔内の細菌が血中を通じて心臓の弁膜や心内膜に付着することで菌血症、血管塞栓、心障害などを引き起こすからだ。岩田氏はこの予防は“術前”に投与して抗菌薬の血中濃度を高めなければ意味がなく、一部で行われている“術後”投与は効果がないことを改めて指摘した。

「教育課程」や「薬剤の添付文書」における課題も

後半のパネルディスカッションでは、「医・歯学部教育」と、「薬剤の添付文書」などが話題にのぼった。

日本の教育課程において、「抗菌薬をどのように使用していくか」「抗菌薬使用よってどのようなことが起こるか」について十分な教育を受ける機会が少ないと岩田氏は指摘する。かろうじて、各病院の方針、過去の慣習、医局の空気感などで、培ってきた医師も少なくない。

また「添付文書」上の課題では、歯科領域では抜歯“後”に抗菌薬を処方することはしばしばあるが、反対に“術前”投与には保険適用がない。改訂を申請できるのは製薬メーカーだけだが、莫大な費用をかけて臨床試験を行う例は皆無である。保険診療上の課題でもあるが、岩田氏は「専門家からの声だけでは肝心の国や厚生労働省の腰も重く、将来世代を薬剤耐性菌から守るためにも、国民も巻き込んで声をあげていくことが大切だ」と語った。

適正使用とは“抗菌薬を使わない”ことではない

前述の“術前の抗菌薬投与”について、ハイリスクでない患者には一律不要との理解でよいか、との質問がフロアから出された。

これに対して岩田氏は、抗菌薬の“適正使用”の難しさを紹介。口腔内の衛生環境が極めて不良で、過去に人工関節置換術を受けたことがある患者の場合は、歯科で観血的な治療を受けた際に口腔内の細菌が血行を介して人工関節に感染を引き起こす場合がある。こうした患者には、エビデンスとして推奨する論文等がないとしても、現場の医師の判断で“抗菌薬の術前投与”を検討することもある。抗菌薬の適正使用とは、“抗菌薬を使わないこと”ではない。目の前の患者に対して医師・歯科医師が、入手しうる最良の情報を駆使して治療に臨むことだ、と結んだ。

(『東京保険医新聞』2018年3月25日号掲載)

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