介護報酬改定:特養「内部留保できない水準まで引き下げる」財務省の暴論に協会が抗議

公開日 2014年10月25日

財務省は10月8日の財政審議財政制度分科会で、来年4月の介護報酬改定を6%引き下げることを提案した。介護事業所の収支差や、特別養護老人ホーム(以下、「特養」)に内部留保があることを問題視、1)介護報酬を6%引き下げて、介護保険サービスの平均8%程度の収支差を中小企業並みの2.2%まで抑制する、2)今年度末までの介護職員処遇改善加算は拡充して継続するというものだ。

しかし、大手の介護事業者の営業利益はニチイ学館111億円、メッセージ53億円、ベネッセ48億円、ワタミ44億円(2013年3月決算)などとなっており、利益を上げ、株式配当をしている「優秀」な企業と、経営困難に直面する中小事業所を十把一からげにした平均値を元に介護報酬を引き下げることに道理はない。

また、財務省は全国に約6,600施設ある特養の内部留保が総額で2兆円になるとして、「特養の儲け過ぎ」を介護報酬引き下げの理由としているが、一社で内部留保が14兆円を超えるトヨタ自動車などの営利企業と異なり、特養などの社会福祉法人は、施設整備費の4分の3が公的資金で賄われており、事実上は減価償却ができないしくみとなっている。

ところが決算上は架空の施設償却費が繰越金に計上されており、現金が積み上がっているわけではない。このような会計処理が求められる特養の「見掛けの内部留保」を問題視して「内部留保が蓄積しない水準」まで介護報酬の引き下げを主張するのは暴論以外なにものでもない。

企業規模計(10人以上)
図1 全産業の平均給与(民間)と介護職員給与の比較  2013年6月30日現在
区分 年齢 勤続 所定内実労働 超過実労働 きまって支給する現金給与額 年間賞与その他
特別給与額
労働者数
年数 時間数 時間数   所定内給与額
(単位) 時間 時間 千円 千円 千円 十人
全産業(民間) 42.0 11.9 163 14 324.0 295.7 801.3 2,243,280
ホームヘルパー 44.7 5.6 164 7 218.2 204.3 272.3 8,684
福祉施設介護員 38.7 5.5 164 4 218.9 205.7 444.8 59,407

2013年賃金構造基本統計調査より(2014年2月20日公表)

ホームヘルパーと福祉施設介護員の月額給与は平均約21万9,000円で、全産業労働者の32万4,000円の7割にも満たない。低い介護報酬下で人材不足が深刻化し、経営難が介護現場を直撃しているなかで、さらに介護報酬全体が引き下げられると、多くの事業所は存続の危機に陥るだろう。

地域の公的介護サービスを守り、さらに充実させるため、協会は10月16日付けで財務省に対して報酬引き下げ方針を撤回するとともに、報酬改善とそのための財源確保を求める抗議文を拝殿清名会長名で麻生財務大臣送付した。

●東京保険医協会「財務省の介護マイナス改定要求に抗議する」(2014.10.16)

(『東京保険医新聞』2014年10月25日号掲載)