「平成26年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(現時点の骨子)」に対する意見

公開日 2014年01月24日

 中央社会保険医療協議会(中医協)が1月15日にまとめた2014年度診療報酬改定骨子について、協会は1月24日、中医協に対して外来部分12項目のパブリックコメントを提出しました。

2014年1月24日
東京保険医協会
会長 拝殿 清名

 項目1-2 外来医療の機能分化・連携の推進について

「診療所や中小病院における主治医機能」の評価方法として、かつての後期高齢者診療料のような包括点数は導入しないこと。

理由:厚生労働省の資料では、高血圧等の内科系3疾患に加えて認知症が対象疾患とされている。医療が専門分化され、他科との連携も必要になるなかで、後期高齢者診療料のように同一月で1つの医療機関でしか算定できないような包括点数になれば、他科での管理を評価できなくなる。例えば、糖尿病の治療と認知症の治療を別々の医療機関で行うということが医療現場では充分に想定される。複数の慢性疾患をもつ患者について、主病は1つとして全ての慢性疾患の管理の評価を1医療機関に限定するのは医学的にも不可能である。主治医が病診連携・診診連携など地域で連携体制を組んで慢性疾患の患者を管理ができるように充分な点数配分を行うべきである。また、出来高での算定も選択できるようにすべきである。

項目1-3 在宅医療を担う医療機関の確保と質の高い在宅医療の推進について

① 在宅時医学総合管理料等への同一建物に応じた評価体系は導入しないこと。

理由:在宅時医学総合管理料等は、在宅におけるかかりつけ医機能を充実させる観点から「個別の患者毎に総合的な在宅療養計画を作成し、それに基づいて必要な在宅医療を提供していくこと」を評価した点数であり、患家への移動の評価は含まれていない。同一建物内に複数の患者が存在する場合でも管理は当然個別に実施しており、管理の手間と費用が減少されるわけではない。そもそも議論の出発は、サ高住などの高齢者用施設を運営する業者が、特定の医師に入所者を優先的に紹介することの見返りとして、診療報酬からのキックバックを要求したとする新聞報道である。そのような事例に対しては、業者が患者を紹介することに対する見返りを求めることを禁止すればよいのであって、骨子の中でも重点課題1-3(1)③で対応すべきものである。さらに、厚生労働省は全国的にそのような事例が広がっているのかの調査を行っていない。京都府保険医協会の調査では、中医協での紹介事例のように診療報酬のキックバックを「支払ったことがある」と回答した医療機関は1件もなかったことが示されている。ほぼゼロに等しい医療機関の不適切な事例により、真面目に在宅医療に取り組む大多数の医療機関を同等に扱うことはやめるべきである。

② 在宅自己注射指導管理料の評価は逓減制ではなく初期加算で対応すること。

理由:厚生労働省は自己注射の指導管理は「一定期間の経過後は必要な指導が減少する」(2013年11月15日中医協資料)と考えているようだが、それは患者全員に該当するものではない。実際には高齢化の進展で、合併症を併発するなどして導入から期間が経過してから対応が複雑になる場合が増えている。糖尿病治療薬等で新薬が次々登場するなど医療の高度化で診療時間が延びている今日、在宅自己注射指導管理料の評価は逓減制ではなく、むしろ管理が大切な導入初期についての初期加算を新設すべきである。

③ 機能を強化した連携型の在宅支援診療所・支援病院の施設基準に各医療機関に対する緊急往診・看取り要件の導入は行わないこと。

理由:連携して強化型在宅支援診療所・支援病院となっている医療機関のなかでは、看取り・緊急往診・病床確保等の各機能をグループ内で分担して場合がある。各医療機関への要件の導入は、複数の医療機関が連携して在宅体制を整えるという強化型在宅支援診療所・支援病院(連携型)の趣旨を否定するものであり、各地域で構築されてきた在宅医療体制に悪影響を及ぼすと考えられる。また、看取りや急性増悪が少ないことは、医師が適切に診察し指導管理を行っていることの証である。そのような医師の力量を評価せず患者の急性増悪や在宅死の数だけを評価対象にすることは、患者の長寿を評価しないことにつながり、非常に問題だと考える。

④ 在宅患者訪問診療料の同一建物における同一日の評価のさらなる引下げをしないこと。

理由:現在でも同一建物居住者に行った場合には400点(特定施設)、200点(特定施設以外)と点数が低く設定されているが、個々の患者ごとに訪問計画を立てて計画的な医学管理の下に行うものであり、同一建物居住者であっても複数に実施した場合に低く算定すること自体が不適切である。同一建物居住者に行った場合の評価を廃止するべきであり、少なくともさらなる引下げはやめるべきである。

項目2-2 精神疾患に対する医療の推進について

通院在宅精神療法等について、向精神薬を多剤投与した場合の点数の減算制をやめること。

理由:実際の医療現場では、3剤以上の多剤処方をせざるをえない患者は統合失調症等の重症患者がほとんどであり、苦心して外来で管理をしている医療機関ほど減算となる可能性が高い。減算制が導入されると、多剤併用で安定した状態にある外来患者の管理を断念し、精神病院に入院せざるをえない事態が増え、かえって医療費が増加することも懸念される。また、薬剤を2種類服用していて1種類の効果がないので変更する場合、患者の病状を考慮して前薬を徐々に減らしていきながら、新薬を徐々に増やすことが一般的である。この場合、3剤を併用する期間がどうしても存在する。厚労省の姿勢はこのような医療現場の実情を全く考慮にいれておらず、問題である。

項目2-5 リハビリテーションの推進について

要介護被保険者の運動器リハ及び脳血管疾患リハの維持期リハビリテーションについて、介護保険への移行を撤廃すること。

理由:維持期も含めてリハビリテーションは、医師が指示する専門職種(PT・OT等)による医療行為である。要介護認定を受けた患者にも身体機能の回復または良好に保つためにリハビリテーションを行うべきであるが、介護保険のリハビリはそれに対応するものになっていない。介護保険で対応できるようになるまでは医療保険から給付されるべきである。必要なリハビリテーションは、医師の判断で継続可能とし、維持期リハビリテーションの介護保険への移行を中止すべきである。

項目3-1 患者に対する相談指導、医療安全対策、明細書無料発行、患者データ提出等の推進について

明細書の無料発行義務化について、明細書の発行は希望者のみで可能なように緩和すること。

理由:現在でも算定した点数の内訳付の領収書が発行されており、患者のほとんどは明細書の発行を希望していない。現在のように「不要の申し出が無い限り、原則発行」というのは非常に不合理であり、いたずらに医療機関の業務負担を増やすだけである。医療費に関する情報を二重に提供する仕組みは廃止し、明細書発行の手間を省きその時間を別の業務に回せるようにすべきである。

項目5-1 後発医薬品の使用促進策について

後発医薬品は1先発品あたり3品目に限り、価格を統一すること。

理由:後発医薬品については、医師のみならず患者の間にも安全性に関して不信感があり、普及がすすんでいないのが現状である。その根本的原因は、後発医薬品の品質を保証する体制が十分に整備されていないからである。品質の標準化・高品質の維持のために、1先発品に対して後発品は3品目にかぎり、その価格は統一するべきである。またその選定は国が責任をもって行うべきである。品質が向上すれば使用促進策を行わなくても後発医薬品の使用が増加することが予想される。

項目5-4 医薬品、医療機器、検査等の適正な評価

① うがい薬のみの処方をした場合の保険適用除外を中止すること。

理由:例えうがい薬だけの処方であってもそれはれっきとした治療行為であり、保険診療で認めるべきである。宇都宮啓医療課長は中医協で「うがい薬のみの処方は、なかなか考えにくく、保険外しを提案した」と発言しているが、実際に処方がうがい薬だけであっても、かかりつけ医が診察を行い、適切な処方をすることによって重病防止につながっている。安易な保険外しは患者の重症化につながり、逆に医療費増加を招くことが懸念される。市販類似薬だからといって安易な保険外しは許されない。

② 入院外の患者に対して、1処方につき7種類以上の内服薬の投薬を行った場合、薬剤料を90/100に減額する規定を廃止すること。7種類以上の内服薬の投薬を行った場合に処方料及び処方せん料を減額する取り扱いを廃止すること。

理由:高齢の患者については複数の疾患に罹患しているケースが多く、そのような患者に対して複数の薬剤が必要な場合には6種類までに収めるのは困難な場合が多い。高齢化の進展に伴ってますますそのような患者が増えており、減額規定は高齢者医療を阻害する要因となっていると考えられる。また、入院患者が退院する時点で7種類以上の薬剤が処方されているケースが多く、それを入院外の診察で直ちに減らすのは困難な場合が多い。

6-1 消費税8%への引き上げに伴う対応

初診料・再診料を大幅に引き上げること。

理由:現在中医協では「初診料8点増、再診料2点増」(案1)と「初診料12点増、再診料3点増」(案2)とする案が議論されているが、いずれも消費増税に対応するものでしかなく、医療再生を考えるならばどちらの案も不十分である。2002年から4回連続の診療報酬マイナス改定の影響で、医療機関は経営上大きな打撃を受け、継続して患者に必要な医療を提供することができるのかも危ぶまれる程である。消費増税分を引き上げるのは最低条件であり、初診料、再診料は「診療にあたっての基本的な医療の提供に必要な人的コスト(従事者のための人件費等)、物的コスト(診察用具等の設備・光熱費・施設整備費等)」(2010年9月29日中医協資料)をまかなうものにふさわしい水準まで引き上げるべきである。

以上
「平成26年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理 (現時点の骨子)」に対する意見 [PDF:227KB]