【解説】共通番号法――個人情報が丸裸

公開日 2013年04月25日

図1

3月22日に衆議院に上程された「共通番号法案」は、解散・総選挙で廃案になった民主党政権の「マイナンバー」法案を下敷きにしたものだ。

税や社会保障、災害以外の「他の行政分野」や「行政分野以外」の分野(=民間)への利用拡大を明記している。共通番号の利用分野の拡大について、検討する期間を旧法案より1年短縮するなど、民間企業での「番号」活用を推進する立場をより鮮明にしているのが特徴だ。

官民ともに国民の膨大な個人情報を集積するデータベースが構築され、国や行政は社会保障費の抑制・削減の道具として使い、民間企業は国民の膨大な個人情報を新しい「市場」として利活用することを可能にするのが、この法案の狙いである(図1・番号制度イメージ)。

共通番号ー医療情報との連結ねらう

共通番号法は附則において、法施行後3年をめどに個人番号の利用範囲の拡大について検討するとしている。政府は国会答弁で、診療内容に関わる医療データを今後利用範囲に加えることを否定しておらず、なし崩し的に個人情報の利用拡大が行われる恐れがある。

医療情報が個人番号と連結された場合、個人の健康状態、病歴などが個人番号から明らかになり、就職時の差別や社会的な差別につながる恐れもある。

個人番号を身辺調査や勤務先で利用されれば、本人が知らない間に不利益な扱いを受けることにもつながりかねない。また、個人の医療データを国家が把握できるようになることも重大で、国家権力による個人のプライバシーへの侵害の恐れもある。

巨大な「IT箱モノ」――際限なき税金投入

共通番号のネットワークシステム構築は「IT箱モノ」といわれており、政府は導入費用として、2,000億から3,000億円を見込んでいる。国務大臣は国会答弁でその後の更新費用等について、「実際に調達したシステムや拡張の必要性等により、大きく変わる」と述べている。また、セキュリティーのレベルを上げれば上げるだけコストが掛かり、ネットワークシステムに際限なく税金が投入される。

社会保障費削減の道具

共通番号により、政府が国民の個人情報を把握できるようになれば、社会保障費抑制・削減の道具として使われる。医療でいえば、国民の給付状況をチェックし、一人あたりが利用できる限度額を設定、その枠を超えれば全額自己負担で支払わせることなども容易に可能になる。

首相が議長を務める産業競争力会議で、新浪剛史ローソン社長は「個人の所得のみならず資産も把握して、医療費介護費の自己負担割合に差をつけ、結果的に削減につなげる」と述べている。国の社会保障費削減に乗じ、民間医療保険などの拡大を狙っている構図が見えてくる。民間企業による個人番号の利用が認められれば、企業の儲けのために個人番号が利用される。

「なりすまし」犯罪が深刻な社会問題に発展

図2

共通番号制を導入している各国では「なりすまし」犯罪が深刻な社会問題になっている。アメリカでは他人の氏名や社会保障番号を不正入手し、クレジットカードを作り、預金口座から現金を引き出す事件が頻発している。税務面でも、電子申告を使った「なりすまし申告」による不正還付申告の被害が起きている(図2・税務面での共通番号制度)。共通番号制がスタートすれば必ずや日本でも同じ様な犯罪が起きるだろう。

被害者対策置き去り プライバシーを侵害

インターネット時代に一度漏えいした個人情報を、個人の努力で抹消することは不可能であり、ひとつの番号に個人情報を集約することは、情報化社会において自殺行為と言える。

政府は「なりすまし」被害等にあった場合に個人番号を変更できると説明してきた。しかし、共通番号は社会全体に広く行き渡っており、番号を変更すれば、全ての関係機関に新番号を通知する必要がある。その通知方法について立案責任者は「今後、関係機関で検討していただきたい」と衆院内閣委員会で答弁し、具体的な方策がないことも明らかになっている。また「なりすまし」についても「なりすましは完全に防ぐことは不可能だ」と述べ、被害を防ぐことができないことを認めた。

法案では、監督機関として「特定個人情報保護委員会」を設置するとしているが、被害者への補償に関しては何の救済策も示されていない。情報漏えいや「なりすまし」犯罪の被害が予想されながら、その対策を先送りするとはあまりに無責任だ。国民一人ひとりが持つ個人の尊厳(プライバシーの権利、自己情報コントロール権)を奪い去る法案である。

協会は、4月5日、政策調査部長名で「『共通番号法案』の廃棄を求める要望書」を提出した。

(『東京保険医新聞』2013年4月25日号掲載)

 

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