介護費抑制にインセンティブ 介護度改善に2万円―品川区、江戸川区が"奨励金"

公開日 2017年05月09日

 品川区では2013年度から、江戸川区では2015年度から、登録した施設に入所している利用者の要介護区分が改善した場合に、区が施設に対して奨励金を交付する仕組みを導入している。

 両区とも入所者の要介護区分が1段階改善すると、月に2万円(1人につき最高4区分改善で月8万円)が区から登録施設に対して支払われる制度だ。

 そもそも介護保険の施設サービス費は、要介護区分ごとに報酬が設定されており、重度者ほど報酬が高く、反対に軽度者ほど報酬が低い構造となっている。両区の制度は、要介護度が改善したことで施設の介護報酬が低下することに配慮するとしたものだ(図1)。

図1_品川区、江戸川区が導入するインセンティブ制度

 品川区では15施設、江戸川区では29施設ほどの特別養護老人ホーム・介護老人保健施設等がこれらの制度に手挙げをしている。
 品川区を例に見ると、改善した利用者数および区からの奨励金額は、初年度47人(680万円)、2014年度86人(1,246万円)、2015年度98人(1,438万円)の実績だ。同様の制度は、福井県、滋賀県、名古屋市、川崎市、岡山市などでも導入されている。

 住み慣れた地域で暮しらしたいという区民の思いや、介護報酬引き下げによって厳しい運営を強いられている介護施設の窮状を逆手にとって、政府はこうしたインセンティブ制度を全ての区市町村に広げていく考えだ。
目標のみ追いかける危険も

 必要な介護サービスの提供により、利用者の身体機能や要介護区分が改善すること自体は歓迎すべきことである。しかし、実績に応じて財政的なインセンティブ付与の規定を設け、単に区市町村を数字目標に向かって競わせようとするなら、「改善しない者」は置き去りにされてしまう危険がある。

次期介護保険計画 維持・改善度に目標設定

 国は「保険者機能の抜本強化」のため、区市町村に対して次期介護保険計画の策定にあたって、新たに「要介護状態の維持・改善度合い」などの目標を定め、目標達成に向けたインセンティブの制度化を指針に盛り込む方針だ。

 今次通常国会には、関連法案(改正・介護保険法案など)の提出を済ませており、①インセンティブ付与の制度化、②新たな介護保険施設の創設、③介護と障害者福祉のサービス「合体」、④介護利用料の3割負担導入など、介護給付費抑制に向けた具体策を着々と進めようとしている。

 このように、2018年4月からの第7次医療計画および第7期介護保険事業計画をにらみ、都道府県や区市町村に示す基本方針・指針策定に向けた準備が本格化しているが、二つの計画における国と都道府県・区市町村の役割の構図(図2)は、2014年6月に成立した「医療介護総合確保法」に端を発している。

図2_医療計画・介護保険計画策定のイメージ

 地域包括ケアシステムの構築や地域医療構想の策定を決めた同法は、医療法や介護保険法など19本もの法律改正を一挙に押し通したが、成立から3年が経過した今、「医療・介護・福祉の地域へのマル投げにならないか」、「医療病床削減を都道府県に押し付けるのではないか」など、当時多くの医療者・介護従事者らが危惧したことが現実のものとなりつつある。

給付なければ無意味な 「持続可能な社会保障制度」

 政府は「持続可能な社会保障制度」を謳うが、制度が存続しても必要な医療・介護サービスが受けられないのでは本末転倒である。患者・利用者に接する立場から、国の狙いや改定の動向などを広く国民に知らせながら、改悪につながる企てを阻止する取り組みが必要だ。

(『東京保険医新聞』2017年4月25日号掲載)