[談話]談話「3.11から10年を迎えて」

公開日 2021年03月18日

考え、備え、共有

 


サルビア会・就労環境部 部長 田中 眞希

 

 「次を右折です」とカーナビが指示、ところが右折すべき交差点も、さらには目的地の建物も何もかもそこにない…これが、東日本大震災の後の東北地方でした。

 東京保険医協会は東京歯科保険医協会と共に何度か被災地支援に赴きましたが、1年が経過する頃、医師の団体として何をすべきか悩みました。宮城県保険医協会の横堀育子先生に相談すると、「この大災害を風化させず、考えてほしい」とのこと。そこで、「"東京で災害が起きたら"を考え、備えよう」という目的で、サルビア会・就労環境部が中心となり、市民講座を開催することになったのです。宮城協会の協力のもと、2012年に第1回が、その後も毎年1回、様々な形式で2018年まで行われました。宮城県からの報告のほか、災害時の健康管理(内科編・外科編)、温かい非常食の試食、東北物産展(東北バル「トレジオン」さん協力)といった内容です。

 災害のフェーズは、超急性期(救出、搬送、生存確認)、急性期(JMAT出動)、亜急性期~慢性期(避難所や自宅避難で生活)などと表現されますが、地元の医師が地域医療に関わって行くのは主に亜急性~慢性期(発災後数週~数カ月)です。この災害後の医療提供についても、市民講座の目的と同様、「考え備える」が大切だと思います。まずは診療を始める前に先立ち、スタッフの安否確認、物資の搬入、一部負担金免除などの情報収集、もちろん自身の家族の安全確保が必要です。いざ診療という段階でも、電気が復旧せずビルのエレベータやオートロックが機能しなければ、診療所は無理で避難所での医療になるでしょう。その場合の処方箋の準備や薬剤師との連携、医薬品はどこから供給するのか、JMATとの連携をどうするか…ちょっと想像しただけでも考えることは山ほどあります。

 3.11から10年を迎え、サルビア会ではこれまでの総括をする予定です。「考えて備えること」を整理し、会員、市民のみなさまと「共有」してゆけるよう工夫を凝らしたいと思っております。

 
 第4回市民講座「3.11を忘れずに向き合っていくため」(2015年)にて、温かい非常食を試食する参加者

(『東京保険医新聞』2021年3月15日号掲載)