[解説]マイナ保険証 政府のトラブル対策を検証する

公開日 2023年09月26日

 ◎誤登録が新たに1069件も

 政府は8月8日に開いた「マイナンバー情報総点検本部」で、総点検の中間報告を発表した。

 「マイナ保険証」に異なる個人番号が登録されていた事例が、新たに1069件確認された。このうち771件について、オンライン資格確認の実施機関がアクセスログを確認したところ、別人の薬剤情報などが閲覧された事例が5件あった。

 厚労省は、基本的な留意事項とは異なる方法で事務処理をしていなかったか点検するよう、全保険者3411団体に依頼していた。異なる方法で事務処理をしていた、またはそのリスクが高いと判断した保険者1313団体が、対象となる1570万件の登録データの総点検を実施したところ、新たな誤登録が見つかった。

 1570万件の登録データのうち、8月1日現在で1515万件の確認作業を完了。転職や転居で被保険者資格を喪失した人のデータなど、残る55万件は本人への確認を進めている。誤登録のケースは、オン資システムなどでの閲覧を停止。閲覧された事例については、保険者が事実関係を最終確認する。

 マイナ保険証については、今後、登録済みデータ全体を対象に、地方公共団体情報システム機構(J︱LIS)に照会する。社会保険診療報酬支払基金が照会を行うが、特例的に手数料を無料とする。本来、自治体以外が実施するJ︱LIS照会は、1件当たり10円の手数料がかかる。基金は今後、約1億6000万件を照会する予定だ。

 マイナンバーと各種制度のひも付けについて、今後、個別データの総点検が必要な団体数(市町村など)も公表した。介護保険事務(介護保険資格・給付情報など)に関しては、市町村・広域連合1735団体のうち、90団体が対象となった。障害者手帳の事務については、対象の都道府県・市町村237団体すべてが該当した。

 中間報告を踏まえた再発防止策も発表した。各種制度の申請者にマイナンバーの記載を求めることを明確化する省令改正や、登録に関するガイドラインの作成に取り組む。ガイドラインは9月中にも作成する。

 しかし、トラブルは現在進行形で多発しており、9月中のガイドライン策定は“泥縄”としか言いようがない。総点検の完了は11月末までを期限としているが、事務負担の重さに自治体からも困惑の声が上がっている。

 岸田首相は、現行の健康保険証を原則廃止する時期を2024年秋から延期するかどうかについて、総点検の結果等を考慮し、早ければ今年秋に判断する意向を表明しているが、マイナンバー制度をめぐるトラブルや強行姿勢が影響し、岸田内閣の支持率は続落している。

 国民の理解を得られていないことは明らかであり、一度立ち止まって制度自体を見直すことが必要だ。

◎資格確認書は申請によらず交付

 政府は8月4日、来年秋の健康保険証の廃止以降、保険加入者でマイナ保険証の利用登録をしていない場合は、申請によらず全員に資格確認書を交付すると発表した。資格確認書の有効期限は「5年以内」とする。マイナ保険証の利用登録をした後も、登録の解除を可能とする方針も示した。その場合は、資格確認書を交付する(表参照)。

 マイナ保険証での受診が難しい場合がある要配慮者(要介護高齢者、障害者等)については、マイナ保険証に利用登録していても、申請して資格確認書を受け取り、継続的に必要と見込まれる場合は、更新時に申請によらず交付する扱いとする。

 資格書の発行には相応の費用や配送の手間がかかるだけでなく、発行対象者を正確に特定できるかという問題もある。「保険証の廃止」に固執した結果、無駄な行政コストを発生させていると断じざるを得ず、現行の保険証を引き続き発行すべきである。

◎マイナ保険証が利用できない場合のために「資格情報のお知らせ」を配布

 8月24日に開かれた社会保障審議会・医療保険部会では、マイナ保険証が利用できない医療機関において保険診療を受けるために氏名などが記載されたカードや文書を配布する方針が示された。このカードや文書は「資格情報のお知らせ」(下図)と命名される予定で、被保険者番号や窓口での自己負担割合なども記載する。

 このカードや文書だけでは保険診療を受けることはできず、マイナ保険証と一緒に提示することが求められるという。来年秋以降、新規資格を取得する人に配る予定だが、その他の人の取得方法や範囲については今後検討するとしている。

◎要介護者向けの対応策マニュアルが公開

 政府は介護が必要な人たち向けのマイナ保険証の管理や申請の対応策をマニュアルにまとめ、8月7日に公表した。

 マニュアルでは、市区町村の職員や委託事業者が個人宅や施設を訪れて申請を受け付けたり、交付時はカードの郵送や代理人の受け取りを可能にしたり、本人が役所に行かなくても済む手順を明示した。

 また、保管や管理が負担になるとの懸念に対し、施設側の管理方法をマニュアル化。鍵付きのロッカーなどでカードを保管し、管理する職員の範囲を定めるといった手順を示した。

 政府は認知症などで暗証番号の利用が難しい人には、暗証番号が不要なカードを11月ごろに交付する予定。ただ、マイナンバーカードの有効期限は10年(未成年は5年)だが、カードに内蔵された電子証明書は5年と短く、更新しないとマイナ保険証としても使えなくなる。更新の際にも申請時と同様、対面の手続きが必要になる。

 現場にも利用者にも自治体にも多大な負担を押し付けるものとなっている。マニュアルの中身もマイナ保険証のメリットを謳う項目が冒頭に来ており、現場の不安に応えるものにはなっていない。マイナ保険証の強制は現場にとって「百害あって一利なし」だ。

(『東京保険医新聞』2023年9月15日号掲載)