PFAS 国主体の調査必要

公開日 2023年11月21日

 公害環境対策部は10月30日、原田浩二氏(京都大学大学院医学研究科准教授)を講師に、PFAS問題学習会「PFASの健康影響とバイオモニタリングの展開」を協会セミナールームで開催し、会場とZoom合わせて41人が参加した。

 
 講師の原田浩二氏

PFAS汚染と健康影響

 有機フッ素化合物の一種であるPFASは、耐熱性、耐光性等に優れ、コーティング剤、泡消火剤、半導体等に、広く使用されてきた。一方で、分解されにくく、その環境残留性により各地で深刻な地下水や土壌汚染が続いている。

 代表的な例として、空港等の航空関連施設や軍事施設、自衛隊施設等では、燃料火災に対処できるようPFOSを主成分とする泡消火剤が使用されてきた。泡消火剤は、事故が起きた時以外に訓練等でも使用され、世界各国で土壌や地下水を汚染している。実際、米軍の横田基地に近い多摩地域や、嘉手納基地に近い嘉手納町や北谷町、普天間基地に近い宜野湾市等の水源や住民の血液中から高濃度のPFOSが検出されている。また、最近では、航空自衛隊の岐阜基地、小牧基地、浜松基地における泡消火設備専用の水槽水から高濃度のPFOSが検出された。

 PFOAを製造していたデュポン社・ワシントン工場の周辺での汚染に対し、2001年に住民が起こした集団訴訟では、賠償金の支払いとともに、アメリカの独立科学調査会によって7万人を対象とした疫学調査が実施された。2012年に結果が公表され、①妊娠高血圧症・妊娠高血圧腎症、②精巣がん、③腎がん、④甲状腺疾患、⑤潰瘍性大腸炎、⑥高コレステロール血症への影響が確認された。日本でもダイキン工業・淀川製作所の周辺等において地下水や住民の血液中から高濃度のPFOAが検出されている。

健康影響調査を広範に

 米国アカデミーが2022年8月に公表した臨床ガイダンスでは、血液中における7種類のPFAS(PFOS・PFOAを含む)の合計値が20/㎖を超えると健康被害の恐れが高まるとし、その患者には特別の注意(診察、検査)を勧めている。

 多摩地域の市民団体が住民791人を対象に、2022年11月から原田氏と実施した血液検査では、対象者の約46%からこの指標値を超えるPFASが検出された。

 原田氏は、「①これまでPFASを様々な場面で使用してきたことから、汚染は各地に存在する。②汚染が見られる地域の住民のPFAS血中濃度は、健康リスクが懸念される状況である。③汚染の状況が把握されていない場所があり得るため、PFASを使用した履歴と汚染調査をリンクさせる必要がある」と述べた。

 今後も各地で汚染実態が明らかになる可能性があることから、国による環境基準の制定と健康調査の実施が切望される。

PFASフリーの動きも

 今後、PFASによる汚染や健康被害を防止するためには、環境中にPFASを放出・残留させないことが肝要だ。1940年代にPFASを開発した3M社 は、2002年にPFASのうちPFOS・PFOAの生産を自主的に中止した。さらに、2025年までにPFASの製造から完全に撤退する計画だ。PFASに対しては、世界的に規制が強化されつつあり、日本でもPFOS・PFOAの製造・輸入等が原則禁止されている。企業においてもPFASフリー(PFAS不使用)の取り組みが始まっている。

※講演の詳細な内容について、11月25日号「視点」に掲載予定

(『東京保険医新聞』2023年11月15日号掲載)