中央講習会 新型インフルエンザ等対策特措法――実地医家への影響と対応

公開日 2013年06月25日

92人が参加し満員となった特措法講習会の様子

中央講習会「新型インフルエンザ等対策特措法……実地医家への影響と対応」が5月28日、新宿安与ホールで開催され、92人が参加した。講師は、岡部信彦先生(川崎市健康安全研究所長/厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会長)、ならびに廣澤友也氏(厚労省新型インフルエンザ対策推進室)。

昨年5月に成立した「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下、特措法)に対する保険医の関心が高まっている。「新型インフル緊急事態宣言」が発令されると、住民の外出の自粛、学校・社会福祉施設などの使用制限や停止が指示され、医薬品、食品などの業者からの収用が認められる。こうした国家的危機管理体制に「医師」も組み込まれることになる。

 

通常の対策こそ基本――前国立感染研情報センター長/岡部 信彦 氏

岡部信彦氏写真

講演の前半、特措法導入の背景等について解説した岡部先生は、新型インフル等対策の基本方針として、1.感染拡大を可能な限り抑制し、健康被害を最小限にとどめる。2.社会・経済を破綻に至らせない―この2点をあげ、迅速な対策のための明確な体制を構築する必要性を強調した。

そして前回2009年の豚インフルエンザ(H1N1)のパンデミックでの死亡率(人口10万人対)について、「米国3.96、カナダ1.32、英国0.76、フランス0.50などと比べ、日本は0.15と世界的に低い」とし、その理由として、皆が情報を知っていて注意した、日本人の個人衛生レベルの高さ、医療機関への受診の容易さ等をあげた一方、「しかし、次にさらに強力なウイルスが来た場合、通常の医療体制の延長では危機管理として対応ができないという認識を各方面が持つべき」と強調した。

また、岡部先生は「新型インフルに対する政府の旧行動計画では、病原性の高い新型インフルのみを想定した内容だったが、新しい行動計画では2009年の経験を踏まえ見直しを行い、ウイルスの病原性・感染力等に応じた柔軟な対策を迅速に実施できるよう、地方自治体が中心となり地域の状況に応じ対策を推進することになっている」とした。

さらに、中国を中心に発生している鳥インフル(H7N9)については「ヒトからヒトへの感染は確認されていない」とし、中東で発生した新型コロナウイルスの状況にも触れた。

そして結論として「新型インフルだから対策を講じるのではなく、通常のインフル対策こそが基本。いろいろな感染症発生に応用できる。熱くなり過ぎず、冷めることなく、継続して対策を進めることが重要だ」とし、医療機関が普段から感染症の標準的な予防策を講じることの大切さ、個人レベルでの日常の健康管理(マスク、手洗い、うがい、予防接種、慢性疾患のコントロール)と正しい情報を得ることの重要性を強調した。
外出自粛・催物制限を要請――厚労省 対策推進室/廣澤 友也 氏

後半に登壇した厚労省新型インフル対策推進室の廣澤氏は、特措法の医療面での運用について解説した。

昨年5月の特措法交付以降、4月12日には政令・施行日政令が公布され、現在は6月15日の政府行動計画・ガイドラインの策定に向けたパブコメの募集が行われた。その後は、都道府県ならびに市町村行動計画の策定が予定されている。

廣澤氏は、「新型インフルは国民の大部分が免疫を獲得していない。近々策定される国・地方公共団体の行動計画では、物資・資材の備蓄、訓練、住民への知識の普及等、より細かい方針が示される。国民の権利に制限が加えられるときであっても、当該制限は必要最小限のものとなる。また、新型インフル発生時には『特定接種』として医療提供業務を行う担当者に対し先行的に予防接種を行っていく」とした。

「新型インフル緊急事態宣言」が発令されると、潜伏期間・治癒までの期間を考慮した外出自粛、催物の制限が要請される他、予防接種の実施、臨時の医療施設設置を含めた医療供給体制の確保、特定物資の収用、生活関連物資の価格の安定等の緊急措置が取られる。

また、国内で新型インフルが発生した「早期」の医療体制としては、発生国からの帰国者や濃厚接触者で発熱等の患者に対し『帰国者・接触者外来』で診断を行い、診断された者は原則として感染症指定医療機関に移送し入院勧告を行う。その一方、帰国者・接触者以外の患者で一般医療機関に受診した者に対しては、臨床症状や検査キットにより診断を行い、全ての疑い患者にPCR検査は行わず、自宅療養、症状により再受診とする。

さらに、次の段階―「国内感染期」の対応としては、原則として新型インフル患者の診療は、一般の医療機関で行う。入院治療は重症患者を対象とし、軽症患者に対する入院勧告は中止し、外来治療・在宅療養とする。

そして、「まん延期」―慢性疾患の患者に対しては通常よりも長期の処方を行い、さらに1~2カ月待機可能な診療についてはこれを延期するなどして業務を減らしつつ、余力を新型インフル関連の診療に振り向ける―廣澤氏は新型インフルに対する医療体制についてこのように説明し、理解と協力を求めた。

(文責・東京保険医協会)