介護保険学習会を開催「介護保険・在宅介護のゆくえ」

公開日 2017年02月03日

服部万里子氏

とんでもない軽度者切り捨て計画―利用者の6割が“給付なし”に―
 1月21日、協会・地域医療部は介護保険学習会を開催し、医師、看護師、ケアマネら84人が参加した。当日は、服部 万里子氏(看護師、介護主任支援専門員、日本ケアマネジメント学会副理事長)から「介護保険・在宅介護のゆくえ」について、また冒頭に中村 洋一医師(中野区、中村診療所院長が「地域で見た高齢者・障がい者の医療介護の問題点」について講演した。

介護保険制度の導入―実態は医療給付の付替え

 まず服部氏が指摘したのは、2000年に発足した介護保険制度の影で、医療保険から介護への付け替えが着々と行われていった点だ。かつては医療給付だった老人保健施設が「介護保険施設」に変わり、訪問看護サービスも介護保険の対象となった。
 2001年度の厚労省統計を見ると、「訪問看護」「訪問リハ」「通所リハ」「介護保健施設サービス」など、医療保険で給付されていた性質のサービスは約1兆9,471億円で、介護給付費全体に対して約45.1%を占めた(図表1)。
 こうして介護保険に付け替えられた金額は、2015年度では2兆4,037億円(介護予防を含む)にのぼる。

図表1 医療から介護の付け替え2兆円(サービス別費用額2001年度)
介護保険費用の合計 4兆3,783億円
  居宅サービス 1兆4,977億円
  訪問通所 1兆2,680億円
  訪問介護 4,002億円
訪問入浴介護 447億円
訪問看護★ 1,048億円
訪問リハビリテーション★ 42億円
通所介護 3,784億円
通所リハビリテーション★ 2,672億円
福祉用具貸与 686億円
短期入所 1,467億円
  短期入所生活介護 1,119億円
短期入所療養介護(老健)★ 306億円
短期入所療養介護(病院等)★ 42億円
居宅療養管理指導★ 180億円
痴呆対応型共同生活介護 372億円
特定施設入所者生活介護 277億円
居宅介護支援 1,320億円
施設サービス 2兆7,486億円
  介護福祉施設サービス 1兆2,035億円
介護保健施設サービス★ 9,637億円
介護療養施設サービス★ 5,814億円

太字(★)部分が介護保険に付け替えられた。
 医療系サービスの比率:45.1%
 医療系サービス額:1兆9,741億円 

サービス利用者の61%を介護保険から外す

 政府が強引に推し進めようとしている経済財政諮問会議の「改革工程表」では、軽度者(要支援~要介護2)を全国一律の介護保険の給付から外し、区市町村ごとの地域支援事業へ移行すると明記している。

 服部氏は、これが現実のものとなった場合は、介護保険サービス利用者の61%が外されることになることを紹介した(図表2)。

表3「保険給付から外れるサービスごとの利用者の割合」

図表2 政府が介護外しを狙う軽度者の割合―サービス別―

 これは利用者・家族への影響はもちろん、介護サービス事業所やケアマネージャーにとっても大変な打撃だ。すでに先行して地域支援事業への移行を段階的に強いられている要支援者の「訪問介護」「通所介護」を見ると、人員基準やサービス単価が自治体ごとにバラバラで、事業所の存続が困難との声が多く聞かれている。

どうなる介護保険制度 住み慣れた街で暮らせと言うが…

 国は「入院から在宅へ」「医療から介護へ」を謳い、地域医療構想や診療報酬による数々の政策誘導を組み合わせた給付抑制を狙っている。最近では「地域包括ケアシステム」という言葉も踊るが、地域のコミュニティが乏しい現在、孤独な高齢者は確実に増加している。東京都の調査では、都内の65歳以上の高齢者のうち独居者はすでに21.4%を超えている。
 いざ身体介護が必要となって施設への入居を希望しても、高額な入所(入居)費用の支払いが重くのしかかる。金銭的に余裕のある利用者は「有料老人ホーム」等へ向かうが、余裕のない利用者は「在宅療養」を余儀なくされる。病状が悪化して入院した高齢者のなかには、退院後に地域に戻ることができず、地方の安価な施設に追いやられることも少なくない。
 本来は軽度者こそ必要なサービスを手厚く利用できることで、重度化・重症化を防ぐことが重要ではないか、と服部氏は訴えた。

利用者・家族に寄り添うケアマネージャーであれ

 過去5回の介護保険制度の見直しによって、介護報酬は4回引き下げられている。ケアマネージャーも、居宅介護支援単独での事業所存続はもはや不可能な状況にある(図表・下)。次回2018年の同時改定では、サービス利用料の3割負担導入も具体化が進むなど、死ぬまで介護保険料を徴収されているにも関わらず、必要なサービスからますます遠ざけられることになる。
 服部氏は、マネジメント業務に奮闘するだけでなく、利用者や介護者の生活に寄り添う立場から、今後の制度改悪に反対する声を一緒に挙げていきたい、と講演を結んだ。
 服部氏による現場からの介護制度改悪の指摘は的確で、参加者からは第2回、第3回の講演を求める声が相次いだ。さらに、患者・利用者負担で生じている困難事例を訴える声も多く寄せられた。

表4-16年間赤字のケアマネ

(『東京保険医新聞』2017年2月5日号掲載)