米国によるイラクヘの軍事行動を危惧する

公開日 2003年02月05日

米国ではイラクヘの攻撃準備を急ぐブッシュ米政権と、これに同調するブレア英政権に対し、与野党を含めた広範な戦争反対の声が上がっている。

米英を除く国連安保理事国フランス、ロシア、中国も賛成していない。こうした最中ブッシュ大統領は1月28日、一般教書演説で、イラクや北朝鮮などの「無法者政権」が「米国と世界が直面する最も重大な危機」だとし、イラクに対しては先制攻撃も辞さない姿勢を改めて表明した。

ブッシュ政権は初め、米同時多発テロ事件発生当時の高揚した世論の雰囲気のうちに、フセイン政権打倒のための対イラク先制攻撃を強行しようとしたが、国連憲章を無視した横暴な姿勢への批判が同盟国からも高まると、昨年9月以降、一旦は国連を通じたイラク問題対処に合意した。

11月には安保理決議1441が全会一致で採択され、新たな査察がなされた。1月27日の国連査察団の報告でも、イラクが大量破壊兵器を開発してきた決定的な証拠は指摘されていない。この間ブッシュ政権は、イラクが安保理決議の「重大な違反」を犯していると非難しながら、それを示す情報の提供を拒否し、その一方でイラク周辺に兵力を増強し、2月下旬には約20万人に達する予定だ。

こうした姿勢への批判が国の内外で強まってきていることにブッシュ政権は苛立ちを募らせている。イラクが核兵器を開発している証拠に「強化アルミニウム菅を購入しようと試みた」と指摘したが、これは通常ロケット用の物で、このことは査察団も認めているのである。疑心暗鬼というか、言いがかりというか、こうなると幾ら査察期間を延ばしても決着は着くまい。

イラク側の生の声は仲々聞けないが、ブッシュの大統領としての資質を低く評価しているようだ。大統領選で辛うじて勝ったことを裁判所が決めたと評している。

イスラム文明は数百年の歴史を有し、そもそもキリスト教文明に先んじて繁栄し、今日の米国を主とするヨーロッパ各国の繁栄は、イスラム文明に負っているという強烈な自負と対抗心をもっている。

西ローマ帝国の滅亡以後、西ヨーロッパは西アジア・インド洋世界システムの「亜周辺」としての存在に過ぎず、その後イスラムから西ヨーロッパは多くのことを学んで発展してきたのである。百年にも満たぬ繁栄の歴史のアメリカが憎悪の対象になってきた過程が理解できなくはない。

世界各地で対イラク攻撃反対の声が広がり、大きなうねりとなっていくことを期待したい。だが、いま開戦の3月危機説もあり、安心しておれる状況ではないのが現実だ。ベトナム戦争でアメリカ自身がどれはど傷ついたか、よく記憶している筈である。ブッシュさん、もっと歴史、経済、哲学その他多くのことを学んで、宰領の器になってはしいものだ。

東京保険医新聞2003年2月5日号より